相談事例

顧客や従業員を巡る問題

【従業員の競業避止義務】

 社員が、社内資料を持ち出して、ネット上で同じような仕事を始めたようです。社員はこのことが発覚してから会社を退職していますが、これによって、会社の顧客を奪われているのではないかと思われます。何らかの措置を執ることが出来ないでしょうか。

 従業員には、労働契約に付随する義務として競業避止義務を負うと考えられています。在職中から競業会社の設立準備をしたり、従業員の引き抜き、競業他社への秘密情報の提供など悪質な行為に対しては、競業避止義務違反として損害賠償請求の余地があります。本件では、就業中にネット上とはいえ、競業事業を始めているのですから、損害賠償請求の余地があると思われます。また、社内資料の所有権を主張し、返還を求める余地もあるでしょう。
ただ、実際には、退職後の事業なのか、退職前からの事業なのか判然としない事案も多いでしょう。退職後の場合には、社員にも職業選択の自由がありますので、直ちに在職中の競業避止義務が及ぶわけではありません。退職後も禁止する旨の合意の有無、その必要性、合理性、禁止される業務の範囲、期間などを総合考慮して判断していくことになると思われます。

【従業員が起こした事故】

 当社の従業員がトラックで荷物を運送中に、運転を誤って他家の塀を壊してしまい、修理費を当社が弁償しました。従業員に請求できますか。

 会社の業務中の事故になりますので、会社は使用者責任(民法715条1項)として、塀の所有者に賠償する義務を負います(従業員と連帯責任になります)。会社が賠償した場合、会社から従業員への請求(求償)をすることも可能とされています(同条3項)。
 ただし、全額を請求できるのではなく、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に制限されることになります(最高裁昭和51年7月8日判決)。その基準としては、会社の「事業の性格、規模、施設の状況、従業員の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情」を考慮して決めるとされています。
 もっとも、どのような場合にどれぐらい制限されるか細かな基準があるわけではなく、個別ケースごとに検討することになります。
 会社としては、保険加入でリスク回避をはかることをお勧めします。

【社員(従業員)の無断欠勤】

 元々勤務態度の悪かった社員が会社に来なくなり、連絡もないまま欠勤を続けています。辞めたものと扱って放っておいてよいでしょうか。

 無断欠勤を記録化して、きちんとした解雇処分を行う必要があります。何もせずになし崩し的に退社扱いにしていると、当該社員から突然不当解雇との訴えがなされるおそれもありますのでご注意下さい。

【従業員に対する懲戒処分】

会社から従業員に対する懲戒処分に関する基本的な考え方について教えて下さい。

 懲戒処分とは、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰であり、戒告、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇などの処分があり、会社の定める就業規則によることが原則です。以下、各懲戒処分について説明します。
  ① 戒告・けん責
    企業により異なりますが、戒告は口頭のみの注意、けん責は従業員に始末書の提出を求めることを通し  

   て、従業員の将来を戒める処分であるといえます。最も軽い懲戒処分です。
  ② 減給
    賃金を減額する処分ですが、、労基法上、減給額の制限が定められています。1つの事案における減給 

   額は平均賃金の1日分の半額以下、減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下でなければなら 

   ないと定められているので、一般的にいえばあまり多くの額を減額することはできないことになります。
  ③ 出勤停止
    労働者に出勤させないことです。出勤停止期間中については賃金が支払われないことになります。
  ④ 降格
    人事としての降格では無く、懲戒処分として降格がなされることがあり、その場合は懲戒処分の判断枠

   組みを用いて適法性を判断します。 
  ⑤ 諭旨解雇
    企業側が従業員に退職を勧告し、従業員本人の願い出によるという形で退職させる処分で、諭旨退職と

   呼ばれることもあります。多くの企業で、退職金が全部または一部支払われる点で懲戒解雇より一段軽い

   処分であると位置付けられています。
  ⑥ 懲戒解雇
    懲戒処分の中で最も重い処分であり、懲戒処分として解雇を行うことです。一般に、即時に(解雇予告

   無しで)、退職金を支給せずになされることが多いようです。ただし、解雇予告義務(労基法20条)の適 

   用の有無(言い換えれば即時解雇が有効か否かということ)、退職金の不支給が適法か否かという問題

   は、理論的には懲戒解雇と区別して検討されることになります。例えば、懲戒解雇は有効であっても、事

   情によっては退職金の全額不支給は認められないという結論(判決)もあり得て、そのような裁判例も多

   く見られます。
    以上のような懲戒処分が有効であるには、懲戒処分について就業規則に規定が設けられ、それが従業員に周知され、就業規則に定める懲戒事由が存在し、処分が社会通念上相当であることが必要です。例え懲戒事由があったとしても重すぎる処分は懲戒権の濫用として無効とされることがあります

【退職金を支払わなければならない場合】

零細経営の会社ですが、退職金というのは、必ず払わなければならないのでしょうか。

 日本では民間企業の従業員に対する法律上の退職金支給義務は使用者に課されていません。したがって民間企業では、必ずしも退職金を支給する必要はなく、現実に雫細企業などでは退職金制度を有していない場合も少なくありません。
 しかし、退職金制度を設けて退職金規程を作成している場合には、規定に従って算定される退職金の支払い義務が法律上も企業に存在し、従業員は退職金を請求できます。
 労働基準法89条は、就業規則の記載事項として「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」をあげています。退職手当の決定、計算および支払の方法とは、例えば、勤続年数や退職事由などの手当額を決定するための基準、あるいは手当額の算定方法や一時金と年金のどちらで支払うのかなどをいいます。さらに、退職手当について不支給事由または減額事由を設ける場合には、退職手当の決定及び計算の方法に関する事項に該当するので、就業規則に記載する必要があるとされています。

【就業規則の作成】

 当社は小規模な会社で、管理職が1人、正職員が8名の計9名ですが、就業規則を作成する必要はありますか?

 また、繁忙期である4~5月のみ、上記に加えて臨時のアルバイトを2名を雇う予定なのですが、その場合はどうなりますか?

 

 常時10人以上の労働者がいる事業場で労働者を使用する使用者は、一定事項について、就業規則を作成することを義務づけられています(労働基準法89条)。ポイントとなるのは、そもそも就業規則は事業場ごとに作成しなければならず、就業規則を作成する義務があるかどうかは、当該事業場に常時10人以上の労働者がいるかどうかによるということです。そして、ここでいう労働者とは、管理職の他、パート、アルバイトなどの非正規労働者も含まれます(もっとも派遣元企業から派遣された派遣労働者は含まれません。)。常時10人以上とは、常態として10人以上を使用することを意味し、繁忙期のみ10人以上を使用するという場合はこれには該当しません。

 したがって、上記の場合、就業規則の作成は、法律上の義務ではありません。

 しかし、従業員の労働条件を明確にし、後日の紛争を防ぐために、就業規則を作成する方が望ましい。また就業規則を定めておけば、従業員の個別の同意がなくても、就業規則の変更によって労働条件を変更することができる場合がありますので、この点でも就業規則を作成しておくメリットはあります。

【残業代の支払い】

 先日、退職した従業員から、残業代の支払を求める手紙が会社に届きました。支払わなければなりません?

 まずは、実際に支払っていた賃金や残業時間から、現実に残業代の未払いがあるのかどうか確認しましょう。その上で、仮に残業代の未払いがあれば、支払わなければなりませんが、賃金請求の時効は2年であり、それ以前の残業代については支払う必要が無い場合もあります。また、当該労働者が管理監督者に当たる場合には、時間外手当を支払う必要はありません(深夜手当は支払わなければなりません。)。

【従業員の居残り】

 従業員が、就業時間終了後も、会社に居残って話をしたりテレビを見たりしています。別に会社に居残られても問題は無いのですが、注意点はありますか?

 就業時間終了後に、従業員が休憩的に残っているのであれば特に問題ありません。もっとも、タイムカードの管理等をしっかりしておかないと、就業時間後の休憩時間も含め残業代請求をされる可能性がありますので、これらの管理を徹底しておく必要があります。

【従業員の解雇】

 問題のある従業員について解雇を考えていますが、どういったことに気をつける必要がありますか?

 解雇については厳しい要件がかせられており、それらの要件を満たすかどうか慎重に検討する必要があります。また、解雇に当たって慎重な手続きを踏まないと、それを理由に解雇が無効になる場合もあります。解雇を行うまえに、要件を満たしているかどうか一度弁護士に相談されることをおすすめします。

【クレーム対策】

 飲食店を経営しています。お客様から食事に異物が入っていた慰謝料を払えとクレームをつけられています。本当に入っていたかどうか、疑問もあるのですが、下手に対応すると店の評判を落としかねません。どうしたらいいでしょうか?

 確かに、最近はSNSで気軽に情報を発信できるので、対応いかんでは被害をより拡大させてしまうことがあります。このため、クレーム対応は非常に神経を使うものになっています。

   まずは、真摯な姿勢で、お客様から事実関係を聞き取ることではないでしょうか。その上で、お客様への回答は後日として、お客様の連絡先を聞き取り、場合によっては弁護士を窓口にしながら、話し合いを進められることも一つの方策だと思います。顧問契約を交わしていれば、事前にお店との間で、クレーム対応をシュミレーションしておき、顧問弁護士との間で役割分担をすることができるでしょう。
【不祥事への暴力団の介入と対策】

 店でお客様に対し不手際があったのですが、元暴力団組合員であるという者が横から介入してきて、解決してやる代わりにお金を支払うよう要求してきます。どうしたらよいでしょうか?

 お客様への対応について、店側に何らかの問題があったようですが、こうした場合、毅然とした対応なにより大切です。警察に警備を要請しつつ、お客様との問題の解決は弁護士に依頼し、きちんと元組合員の介入を阻止するべきです。

 お客様への対応を穏便に済ませたいと思うあまり、暴力団関係者の介入を認めれば、今後もつけいられ、お客様からの評価も下がり、結局事態は悪化しかねません。暴力団対策法は、指定暴力団員だけでなく、その周辺者に対しても規制対象を広げています。
【有給休暇を取得させる義務】

 労働者に有給休暇を取得させることが使用者に義務になっており、罰則もあると聞いたのですが、本当でしょうか

 2019年4月1日から有給休暇について労働者に一定の日数使わせることが使用者に罰則付きで義務づけられることになりました。

 

●対象労働者

 対象となる労働者は10日以上有給休暇が与えられている労働者です。

●義務の内容

 具体的な義務の内容は、労働者に1年間で必ず5日以上使わせなければならないというものです。この1年間というのは入社してから半年経過した日から数えて1年ごとです。

 

 また、5日以上というのは、労働者が自分で使った有給休暇と合計して5日以上ということです。つまり、労働者が自分で有給休暇を2日使っている場合には3日以上ということになります。

 そして、使用者がこの義務に違反したときは、30万円以上の罰金に処せられる可能性もあります。

 

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