2026.10.05
弁護士 森信雄
公正証書遺言作成手続のデジタル化
1 公正証書遺言は公証人役場で作成する遺言書で、遺言内容を確実に執行するために有意義なものです。
これまでは、遺言者と証人2名が公証人役場に出向き、公証人の面前で遺言内容を確認し、遺言者、証人、公証人がそれぞれ署名・捺印し、原本は公証人役場が保管し、正本と謄本は本人に交付するというしくみでした。
2 2025年10月、公証人法が改正され、公正証書作成手続のデジタル化(公証人役場への出頭不要)が導入されたことから、公正証書遺言も同じようにデジタル化された手続きで作成できるようになりました。おおよその流れは次のとおりです。
(1)遺言者は、マイナンバーカード等を利用し、電子データに電子署名、電子証明書を付してメール送信し、公証人は電子証明書により電子署名の有効性を確認し、本人確認を行う。
(2)遺言者が希望し、公証人が相当と認めた場合、ウェブ会議の方法により、本人確認、本人の意思確認、証人2名の確認を行ったうえ、公証人が画面に表示された案文を読み上げ、列席者が内容を確認する。
(3)公証人が列席者に、上記案文を記録したファイルへの電子署名を依頼するメールを送信し、列席者全員が内容を確認して電子署名を行い、送信する。
(4)その後、公証人が電子署名を行う。
(5)公正証書遺言は電子データで保存し、遺言者は、プリントアウトした書面を受け取るか、データそのものをメール又は記録媒体(USBなど)で受け取る。
3 社会のIT化の進行に適応した手続きで、選択肢が増えたことは歓迎すべきですが、注意すべき点もあります。
一つは、現状では、一定の水準を満たしたパソコンと電子署名を行うための機器(電子ペンなど)が必要とされており、日常生活で使用頻度の高いスマートフォンで手続きができるわけではありません。
もう一つは、公正証書遺言は遺言者の死後に効力が発生し、相続問題に直結します。公証人が相当かどうかの確認をするとは言え、対面の意思確認と比較して、ウェブ会議の方法による遺言者の意思確認は、後に、相続人によって争われる余地が大きくなるリスクが考えられます。
その意味で、公証人役場に出向くことが困難な事情がある場合の補助的な方法と位置づけ、対面方式で公正証書遺言が作成可能な場合はこれまでどおりの対応をしたほうがいいのではないかと思います。
いずれにしても、今後の運用実績、定着状況に留意する必要があります。

