相談事例

労働問題

 

(残業手当の計算)
 労働基準法は、最低限の労働条件を定めた法律です。
 労働基準法は、原則として週40時間、1日8時間の労働を超えた労働に対しては残業代として割増賃金を支払うこと、午後10時から午前5時までの深夜労働や休日の労働に対しても残業代として割増賃金を支払うことを使用者に義務づけています、
 法律の定める割増率は、時間外労働が25%、休日労働が35% 、深夜労働が25%とされていますので、例えば時間外の労働が深夜労働にあたる場合は両者を加算して50%の割増となり、おなじく休日の深夜労働は60%割増となるわけです。
(残業代の請求はどうするか)
 労働組合を通じての会社との交渉、労働基準監督暑への申告、裁判所の利用など事案に適した方法で請求することができます。
 とりわけ裁判所を利用する場合には、労働者の側で実際の労働時間を証明することが必要です。タイムカードや、ドライバーの場合などは運転日報などが有力な 証拠となります。コピーや控えを取るなどしておくことが大事です。できれば、残業を誰に命じられたのか、また残業の内容などもメモしておくといいでしょ う。賃金規定や給与明細も大事な資料となります。
 最近では、裁判所でも労働審判の制度が導入されて早期の解決がはかられていますので、この制度の利用もおすすめです。
 

 労働時間等に関する規定は、「管理・監督者」には適用されないこととされています。経営者は割増賃金を免れるために、その労働者が「管理・監督者」だと 主張することがあります。しかし、実際に自由な裁量がない場合には「管理・監督者」とは言えません。「名ばかり店長」がその典型ですが、大半の労働者は 「管理・監督者」に該当することはありません。

【固定残業代】

  私の会社では、実際の残業時間に関係なく「固定残業代」が払われるようになっていて、何時間残業しても残業代は増えません。このような制度は適法なのでしょうか。

 本来、残業代は、その月の残業実績に基づいて毎月計算されて支給されるものです。ところが、会社によっては、「残業代は固定で月5万円を支払う」とか「営業手当は残業代扱いとする」などの内容で給与が支給されているところがあります。
  しかし、その多くで、残業を何時間しても、固定残業代以外に残業代が支払われないという違法な運用をしている事業所があります。
 裁判所の判例では、支払われている固定残業代と基本給を金額として明確に区別できなければ、残業代の一部が支払われたとはいえず無効と判断しています。「残業代は基本給に含む」という金額不明の規定ではなく、契約時に契約書や就業規則で金額が明示されていなければならないのです。
   さらに、何よりも重要なことは、固定残業代額が、実際の残業に対して計算される残業代の額を下回る月には、不足額を支払う合意や規定をしているか、現実に不足額を支払っていることが要件とされています。
 現実には、これを支給せず、残業代の頭打ちとし、違法な固定残業代制度を導入している事業所が多いのが実情です。
  したがって、固定残業代制度は、実際の残業手当が、事業所が固定残業代で予定している残業時間の範囲内にとどまり(つまり不足額が出ることはない)、毎月の残業時間の計算の手間を省く意味で実施するとか、基本給以外に、これだけの残業代は最低保障するという意味で利用されるべきものです。

 

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【労働時間と待機時間】

 管理会社に雇われ、マンションの管理人をしているのですが、夜の10時から朝の6時までが仮眠時間とされ、泊まり勤務手当として2000円が支払われるだけで、時間外手当や深夜手当が支給されません。この時間は、マンションの外に出ることはできず、警報が鳴ったときなどは対応しないといけないのですが、時間外割増賃金や深夜割増賃金を支払って貰えないでしょうか?

 仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たると認められれば、原則時間外割増賃金や深夜割増賃金を支払ってもらうことができます。

 労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間をいい、これにあたるかどうかは、客観的に決まります。仮眠時間についても、何かあった際には直ちに対応することが義務づけられていれば、時間的・場所的な拘束の程度などの事情も踏まえて、労働時間に該当すると認められる場合もあります。

 もっとも、労働時間と認められた場合でも、監視・断続的労働として使用者が労働基準監督署長の許可を得ていた場合には、許可を受けた条件を遵守している限り、時間外割増賃金

や深夜割増賃金休日手当を支払ってもらうことができません(労働基準法41条3号)。

 なお、労働基準法41条3号によっても深夜業については適用除外されませんので、深夜割増賃金の請求は可能です。しかし、許可基準を定める通達では、宿直手当の最低額なども定められていますが、宿直手当には深夜割増賃金も含むと解釈されているので、労基法のとおり算出した深夜割増賃金の額が「泊まり勤務手当」の額を超える場合に、差額の支払が請求できることになります。

【時間外労働の上限規制】

時間外労働についてあらたに上限規制ができたと聞いたのですが、どのような規制なのですか?

2019年4月1日(中小企業については2020年4月1日)より時間外労働についてその時間について上限規制ができました。

(1)原則

まず原則として時間外労働(休日労働は含まない)の上限は、

 1ヶ月間で45時間

 1年間で365時間

となっています。

(2)例外

もっとも、当該事業所で通常予見できない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合、特別条項付きの36協定を締結していれば、この上限を超えることができます。

ただし、

●時間外労働が月45時間を超えるのが6か月以内でないといけない

●時間外労働+休日労働の合計が月100時間未満でないといけない

●時間外労働と休日労働の2~6ヶ月の複数月平均が80時間以下でないといけない

●時間外労働の時間数が年720時間(休日労働含むと960時間)以下になるようにしないといけない

という制限がついています。

なお、36協定については、労働者代表がきちんと選挙などの民主的な手続で選ばれているかなどが問題になるケースがあります。

【高度プロフェッショナル制度】

会社からあなたは高度プロフェッショナル制度の対象なので高度プロフェッショナル制度を適用しますねといわれ、同意書を書いてしまいました。その後、残業代が一切支払われなくなったのですが、残業代を請求できないでしょうか?

 高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を有する労働者で職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象に、労使委員会の決議及び労働者本人の同意などを条件に、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。つまり、これが適用されると時間外割増賃金や深夜割増賃金を一切払わなくてもよくなるという制度です。

 もっとも、その代わりに厳格な要件が設定されており、その要件を満たしていなければ高度プロフェッショナル制度が適用されず、時間外割増賃金や深夜割増賃金などを請求できることになります。また、この制度では労働者の同意が要件とされており、労働者としては一度同意してしまっても同意を撤回すればこの制度が適用されなくなり、時間外割増賃金や深夜割増賃金を請求できます。

 

具体的な要件は以下のとおりです。

まず、対象となる業務は

・高度の専門的知識等を必要とするもの

・その性質上、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないもの

であり、具体的には省令で以下の5つの業務とされています。

 

①金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

②資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務

③有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務

④顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務

⑤新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

 

 また、対象となる労働者は、年収が1075万円以上の労働者とされています。

 

 そして、手続としては、まず労使委員会の設置し、この委員会で対象業務や対象労働者の範囲、対象労働者の健康管理時間を把握すること及びその把握方法、労働者に年間 104 日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること、対象労働者の同意の撤回に関する手続などを5分の4以上の賛成で決議しないといけません。

 その上で決議を労働基準監督署長に届け出て、労働者から書面で同意をとる必要があります。

 

 すでに説明したとおり、このような要件を満たしていなければ、高度プロフェッショナル制度が適用されなくなります。

 実際に適用されている方は、要件を満たしているかなどについてまずは弁護士にご相談ください。

労働者派遣は、①派遣会社と派遣先の「労働者派遣契約」と②派遣元と派遣労働者の「雇用契約」の2つの契約から成り立っています。
派遣先が派遣会社との派遣契約を中途解約しても、労働者と派遣元の雇用契約が当然に終了するわけではありません。
そこで、雇用契約の相手方である派遣会社に対して、つぎのような対応が考えられます。
①解雇の無効を主張し、残った契約期間の新たな派遣先の提供を求める。
②新たな派遣先がなく、働くことができなかった場合には、賃金の全額又は少なくとも平均賃金の60%の休業手当の支払を求める。
③解雇を認めたうえで、解雇予告手当の支払を求める。

 労災保険の申請は、本人または遺族が、労働基準監督署に直接請求することができます。
 事業者は、休業4日以上の労働災害により労働者が死傷した場合には、遅滞なく、労働基準監督署長に労働者死傷病報告を提出しなければなりません。しか し、事業主が行わないときは、労働者や遺族が直接行うことができるので、医師の診断書などの証拠をを添えて、労働基準監督署に申請してください。会社が、 協力をしてくれないことを申請段階で話し、あとは労基署の手で会社から災害の原因や発生状況について調査してもらうことになります。

 

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独立行政法人労働者健康福祉機構が、未払賃金の一部(8割)を立替払いする制度があります。
給料等の債権は、法的には優遇される取り扱いがなされ、破産手続、民事再生手続上、他の債権に優先したり、随時支払いを受けることができたりする場合があります。しかし、破産財団に全く財産がないという場合には、あまり意味がありません。
そのような場合には、未払賃金の立替払制度の利用が考えられます。
未払賃金の立替払制度を利用するには、
①事業主が1年以上事業活動を行っていたこと、
②法的倒産処理手続(破産、会社更生、民事再生などの手続)をとっているか、事実上倒産して賃金支払能力がないことを労働基準監督署長が認定していること。
③労働者が、法的倒産処理の場合は手続開始等申立日の6ヶ月前以降に退職していること 
④労働者が、2万円以上の未払い賃金又は退職金を持っていることなどが要件です。
立替される金額は、未払賃金の総額の8割ですが、退職時の年齢に応じて計算の基礎となる未払賃金の総額に限度があります。
ボーナスは、立替払の対象とはなりません。
未払賃金立替払制度の詳細については、労働基準監督署で相談できます。

【失業保険について】

会社からリストラに遭いました。給料明細上、雇用保険料が引かれていたのに、どうも社長が保険料を納めず使い込んでいたようなのです。このような場合、失業保険の給付を受けることが出来ますか。

   できます。失業保険は雇用保険に基づく給付の一つですが、雇用保険は、5人未満を雇用する農林水産業を除き、労働者を雇用している全ての事業に適用され、雇用保険の保険関係は事業が開始された日に成立します。
 この場合の労働者は、雇用されると自動的に雇用保険の被保険者としての資格を取得します。このため、事業主が届出や保険料納付の手続を怠っている場合でも、雇用保険給付を受けられることになります(職業安定所は事業者から未納分の雇用保険料を徴収します)。よって、届出未了や保険料未納を理由として失業保険の支払いを職業安定所が拒否することは出来ないのです。

【降格を理由とする賃金引き下げ】

 私は現在会社で部長職にあり給料は月50万円です。そのうち、部長職の役職手当が10万円です。ちなみに、課長職の役職手当は4万円です。
 先日、私は、業務上の不祥事を理由として課長職に降格するという内容の処分を受け、役職手当が部長職の10万円から課長職の手当の4万円に減額されました。結局給料が月50万円から44万円に減額されたのですが、このような減給は許されるのでしょうか。

 結論から言うと、部長から課長への降格処分が有効な場合には6万円の減給は認められることになります。以下、その理由を説明します。
   労働基準法91条では、減給の制限が設けられています。すなわち「減給の制裁を定める場合1回の減給額が平均賃金の1日の半額を超え、かつ総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」とされています。あなたの月給は50万円ですので、減給の制裁は5万円となり、6万円の減給はこの法律に反する可能性があります。
   ただ、この減額の制限は、制裁として、すなわち懲戒処分としての給料の減額に関するものです。
   あなたの場合には、降格に伴い、役職手当が部長職の10万円から課長職の4万円に減額されたということですので、この降格処分が有効な場合には、労基法の規定に反することにはなりません。この降格処分が有効である場合には6万円の減給は認められることになります。
   その際、主要な論点となるのは、①部長職から課長職に降格することを正当化するほどの理由があるのか、②役職手当の取り決めが従業員に周知されているのか、等です。
   会社が降格を撤回しない場合には、裁判で決着をつけることになりますが、以上の論点をあらかじめよく検討してください。

【整理解雇】

 今の会社で20年間勤めてきました。
 会社が不況につき人員を削減する必要があると言って、早期退職を募集しました。予定した数に達しなければ、それに達するまで解雇すると説明しています。
 もし、指名解雇された場合、受け容れるしかないのでしょうか。

 整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇のことを指し、もっぱら企業の都合による解雇であることから、解雇権濫用法理の適用に当たっては厳しく判断すべきものと考えられています。
 これまでの裁判実務では、①人員削減の必要性(人員削減が企業の合理的な運営上やむをえない措置かどうか)、②解雇回避努力義務(配転、出向、一時帰休、希望退職の募集など解雇を回避する努力が尽くされたかどうか)、③被解雇者選定の合理性(指名解雇をする場合に、その選定基準が客観的かつ合理的であり、かつその基準が公正に適用されたかどうか)、④手続きの相当性(労働者や労働組合に対して納得を得るための説明を尽くしたかどうか)の四つの要件を検討して、整理解雇が有効かどうかが判断されています。
 整理解雇が有効とされるには厳しい要件を充たす必要がありますので、そのまま受け容れるのではなく、よく検討することが必要です。

【労働者性】

 トラック運転手をしており、取引先の会社から運送業務の委託契約という名目で、荷物の運送を行っていますが、その会社の従業員と同じような実態で働いています。ある日、トラックへの荷物の積み込み作業中に怪我をしてしまいましたが、労災を受けることはできないのでしょうか?

 労働基準法上の「労働者」にあたれば、労災保険法に基づき、各種の給付を受けられる可能性があります。「労働者」に当たるかどうかは、契約の形式ではなく、客観的な実態から判断しますので、たとえ業務委託契約という名目であったとしても、労働者として認められる場合があります。

 具体的には、仕事を依頼されたときに断る自由があるかどうか、仕事を行うに当たってどの程度指揮命令を受けるのか、勤務場所・勤務時間についてどの程度拘束を受けるのか、報酬が労務に対応するものか、代替性があるかものかどうか(他の方でもできるものかどうか)などから、労働者に当たるかどうか判断します。

【求人票と就労条件が異なる場合】

 求人票には基本給25万円と書いてあったのに、実際に働いてみると基本給のうち5万円は残業代であると言われました。求人表通りに基本給として25万円支払うように求めることはできないのでしょうか?

 求人票は、一般的に申込みの誘引に当たると言われています。つまり、求人票を見て労働者が応募し(申込み)、企業が採用を決定(承諾)して初めて労働契約が成立します。したがって、求人票に示された労働条件が直ちに労働契約の内容になるわけではありません。

 しかし、求人票に具体的な条件が記載され、その後面接や採用決定の際などにも具体的な労働条件が説明されずに、そのまま働き始めた場合、求人票に記載された労働条件が実際の労働条件になる場合があります。また、そのように認められない場合でも、求人票の内容が労働者に誤解を与えるようなものであった場合、損害賠償を請求できる場合があります。

 

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【採用内定(内定取消)】

 ある企業から正式な採用内定をもらっていたのですが、後になって採用面接で話した内容の一部が嘘であったことが会社にばれて、採用が取り消されてしまいました。このような理由で採用内定を取り消せるものなのでしょうか?

 一般的には、採用内定の時点で、労働契約が成立していると考えられます。したがって、採用内定の取消は、労働契約を一方的に解約(解雇)することになり、これが認められるためには、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と認められる事情がないといけません。上記のような例であれば、嘘であった事実がどのような事実なのか、嘘をついた動機が何なのかなどに照らして、それが上記のような事情に当たるかを判断することになります。

【試用期間(本採用拒否)】

 ある企業から採用され、最初の3ヶ月は試用期間として働いていましたが、3ヶ月後、この仕事は君には向いていないと言われ、本採用を拒否されました。本採用をするように会社に求めることはできるのでしょうか?

 試用期間が満了した後の本採用拒否も基本的に労働契約を一方的に解約することに当たります。ただし、試用期間がついている契約は、一般的に試用期間中は使用者に解約権が留保されている契約であると考えられています。したがって、本採用の拒否もこの解約権の行使として認められます。

 もっとも、無制限に認められるわけではなく、解約権を留保した趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければなりません。つまり、試用期間を設定するのは、採用を決める段階では、労働者の資質・能力などの適格性を判断するための資料を十分に集めることができないため、試用期間中に労働者の働きぶりを見て最終的な決定をするためであるので、採用決定後の調査の結果や試用期間中の勤務状態などによって、採用時には知ることができず、また知ることが期待できないような事実が分かり、その事実に照らして、引き続き雇用しておくのが適切でないと判断することが客観的に相当と認められることが必要となります。

【賃金からの天引き】

 仕事中に会社の機器を壊してしまい、会社からその弁償代50万円をボーナスから差し引くと言われました。その場で上司に強く言われて、ボーナスから差し引くことに同意すると書いた書面を会社に渡しましたが、やはりボーナスから差し引かれることに納得がいきません。どうにかならないでしょうか?

 法律で賃金は全額労働者に支払わないといけないとされており、会社が弁償代を賃金から一方的に差し引くことは許されません。他方で、これらを給料から差し引くことに労働者が同意した場合には、賃金から差し引くことも許されますが、この同意が有効とされるには、労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要となります。

  したがって、書面を書いてしまっても、客観的な状況などから同意が有効とされず、天引きを免れることができる場合があります。

  また、上記の事例のような場合、そもそも会社からの天引きに同意する書面への署名を求められたとしても、そのような書面に署名しないことが大切となります。

【有給、産休の取り方と不利益取り扱い】

 ボーナスの算定において、有給休暇を使って休んだ日数や産休で休んだ日数が欠勤日として扱われていたのですが、そのような扱いは許されるのでしょうか?

 ボーナスの算定において、有給休暇を使って休んだ日数について欠勤日扱いすることは基本的に許されません。他方で、産休については、ボーナスの算定において欠勤日として扱うことは、原則許されます。もっとも、そのように欠勤日として扱うことによって産休を取得した労働者に与える不利益などを考えて、一定の場合には、そのような制度が、無効となる場合もあります。

【休業中の賃金請求権】

 工場で勤務しているのですが、原材料の輸入がストップしてしまい、作業を行えないことから工場が休業になりました。休業期間中の賃金を支払ってもらえるのでしょうか?

 休業が使用者の過失によって生じた場合など、使用者の民法上の帰責事由によるものであるときは、労働者は賃金を全額請求することができます。

 他方で、原材料の欠乏など、使用者に民法上の帰責事由があるといえない場合でも、天災事変などの不可抗力に該当しない限り、労働基準法26条に基づいて、賃金の60%を支払うよう求めることができます。

【労働条件の切り下げ】

 会社から突然、来月以降給料を減額されると言われました。このような一方的な給料の減額は認められるのでしょうか?

 使用者が労働者の合意なく一方的に労働条件を引き下げることは原則認められません。

  また、労働者が合意した場合でも、切り下げ後の労働条件が法令や労働協約などに違反している場合には、同意は無効とされます。

  例外的に、会社は、就業規則を変更することによって、労働者の同意なしに労働条件を引き下げることができます。もっとも、このような変更が認められるのは、変更後の就業規則について過半数労働組合または過半数労働者の代表に意見を聴き、変更を労働者に周知しなければならず、かつ変更が合理的である場合に限られます。そして、賃金など重要な労働条件を切り下げる場合には、就業規則を変更して労働条件を切り下げる高度な必要性がなければ、変更が合理的であるとは認められません。

 

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【配転】

 現在大阪支店に勤務しているのですが、会社から突然札幌支店に転勤するように言われました。たしかに、会社の就業規則には、必要に応じて転勤させることができると書いているのですが、同居している母親の介護もあり、いきなり転勤するのは難しいです。このような転勤命令に応じないといけないのでしょうか?

 就業規則などに転勤させることができる旨が書いてある場合など、労働契約上の根拠があれば、原則会社は労働者に配転を命じることができます。

 もっとも、たとえば、勤務場所を大阪支店に限定するなど勤務地を限定する合意があれば、それ以外の勤務地への配転を命じる権限は会社にはありません。

 また、配転を行う業務上の必要性がない場合や、配転命令が他の不当な動機・目的からなされている場合には、配転命令は、無効となります。また、子の養育や親の介護を抱えている場合など、配転によって労働者にあたえる不利益があまりにも大きい場合には、無効となる場合があります。

 労働者の不利益を考える際には、近年、育児介護休業法で、労働者を転勤させる場合に、子の養育や家族の介護の状況に配慮することが事業主に義務づけられたことや、労働契約法でワークライフバランスへの配慮が求められたことなどから、これらについての配慮がきちんとなされているかどうかも重要となってきます。

【パワハラ(パワーハラスメント)】

 会社の上司からたびたび「お前は人間以下だ!」「馬鹿か!」等の暴言を浴びせられます。上司や会社に対し、何か求めることはできないでしょうか?

 上司の指導が適正な業務指導の範囲を超えている場合、違法となります。会社には、パワハラなどが生じないように職場の環境を整える義務(職場環境保持義務)がありますので、会社に対し、上司に指導を行う、配置を換えるなどパワハラが起きないように対応するよう求めましょう。会社に対し、個人で申入れを行うことに躊躇される場合は、労働組合を通じて申入れを行うことも考えられます。

 また、そのような暴言などによってうつ病などの精神疾患を発症した場合などには、損害賠償を請求できる場合があります。また、会社に対し、そのような状況を放置した点について、損害賠償を請求できる余地もあります。暴言などについては、後でそのような発言を行ったかどうかが争いになることが多いので、録音などの記録を残しておくことが重要になります。

 

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【セクハラ(セクシャルハラスメント)】

 会社の上司から、たびたびセクハラと思われるような言動をされています。上司や会社に対し、何か求めることはできないでしょうか?

 会社には、セクハラなどが生じないように職場の環境を整える義務(職場環境保持義務)がありますので、会社に対し、上司に指導を行う、配置を換えるなどパワハラが起きないように対応するよう求めましょう。会社に対し、個人で申入れを行うことに躊躇される場合は、労働組合を通じて申入れを行うことも考えられます。

 また、当事者の職務上の地位・関係、行為の場所・時間・態様、被害者の対応などの事情を考えて、社会通念からみて相当性を逸脱している場合には、被った精神的苦痛について損害賠償を請求することができる場合があります。会社に対しても、そのような状況を放置した点について、損害賠償を請求できる余地もあります。なお、後で発言を行ったかどうかが争いになることが多く、録音などの記録を残しておくことが重要になります。

【使用者(会社)からの損害賠償請求】

 調理場で働いていますが、何度か皿を落として割ってしまいました。会社からは、割った皿について、弁償するよう求められていますが、応じなければいけないのでしょうか?

 労働者が些細な不注意で会社に損害を与えてしまったとき、そのような損害の発生が日常的に発生するような性質のものである場合には、損害賠償義務が生じない場合があります。他方で、労働者が重大な不注意や故意によって会社に損害を与えてしまった場合には、会社に対し損害賠償義務を負うことになります。

 今回の場合、調理場で皿を落として割るようなことは、重大な不注意とは言えず、日常的に発生するような性質のものであるので、会社からの要求に応じる必要はないでしょう。

 なお、重大な不注意で会社に損害を与えてしまった場合でも、労働者が賠償義務を負うのは、その事業の性格や規模、労働者の業務の内容や労働条件、そのようなことが起きるのを防ぐために使用者がどの程度配慮していたかなど様々な事情に照らして損害の公平な分担という見地から相当と認められる限度に限られます。

【競業避止義務と退職金の不支給】

 大阪の会社に勤めていましたが、そこを退職し、兵庫県にある同業他社に就職しました。そのことが前の会社に発覚し、その会社から、就業規則の規定に基づいて、退職金を全額不支給にすると言われました。確かに就業規則にそのような規定があるのですが、このまま退職金を払ってもらえないのでしょうか?

 退職者が競業をするのを防ぐために、退職後一定期間に同業他社に就職した場合、退職金の全部または一部を不支給とする規定をおいている会社がありますが、退職労働者にも職業選択の自由(憲法22条1項)があることから、このような規定があっても常に退職金の不支給が許されるわけではありません。退職に至る経緯や退職の目的、退職従業員が競業関係に立つ業務に従事したことによって会社が被った損害などの様々な事情を考えて、会社に対する著しい背信性があるとはいえない場合には、退職金の不支給が認められない場合もあります。

 今回は、大阪の会社から兵庫県の会社に移ったケースですが、前の会社と今の会社の事業展開する地域が重なっているかどうかなどもポイントになると考えられます。

 

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【退職勧奨】

 会社からしつこく退職するように言われています。断り続けていると、部屋に閉じ込められ、長時間にわたって上司から執拗に辞職届にハンコを押すように言われました。どうすればいいでしょうか?

 退職勧奨に対し、労働者は、退職に応じる義務は一切ありません。また、退職勧奨の手段、方法が社会通念上の相当性を欠く場合、たとえば、退職を拒否しているにもかかわらず、何回も呼び出し、密室で長時間にわたって退職するように迫るなど、労働者の自由な意思決定を妨げるような場合には、退職勧奨自体を理由として損害賠償請求できる可能性があります。

 なお、後で発言を行ったかどうかが争いになることが多く、録音などの記録を残しておくことが重要になります。

【仕事上のミスを理由とする解雇】

 仕事で大きなミスをしてしまい、会社に大きな損害を出してしまいました。それを理由に会社を解雇されましたが、このようなことを理由とする解雇は認められるのでしょうか?

 解雇が有効であると認められるためには、その解雇について客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるものでなければなりません。労働者の行為を理由とする場合、その行為のが解雇に値するほど重大なものかどうかや、労働者がそれを将来繰り返す可能性があるのかどうか、使用者が解雇に至る前に警告などによって改善の努力をおこなったかどうかを考えて、社会通念上相当と認められるか判断することになります。

【有期雇用の雇い止め】

 半年契約を6回も繰り返し、3年間今の会社で働いていますが、突然次の更新はしないといわれました。そのままあきらめるしかないでしょうか?

 有期契約でも、更新を繰り返して実質的に無期の労働契約と異ならない状態になった場合や、契約更新の合理的な期待が認められる場合には、使用者が労働者の契約更新の申込みを拒否するには、客観的に合理的な理由があり、社会的通念上相当と認められなければなりません。

 実質的に無期契約と異ならない状態かどうかや、契約更新の合理的な期待が認められるかどうかは、職務内容が恒常的か臨時的かどうかや契約上の地位が正社員と同一かどうか、更新を期待させる使用者の言動があったか、更新手続きが厳格かどうか、更新の状況などから判断します。

【労働審判の流れ】

 労働審判の流れについて教えてください。

労働審判の流れは以下のとおりです。

(クリックでPDFファイル表示)

労働審判の流れ

【有給休暇を取得させる義務】

 2019年4月1日から労働者に有給休暇を取得させることが使用者に義務になり、罰則もあると聞いたのですが、本当でしょうか?

 2019年4月1日から有給休暇について労働者に一定の日数使わせることが使用者に罰則付きで義務づけられることになりました。

●対象労働者

 対象となる労働者は10日以上有給休暇が与えられている労働者です。

●義務の内容

 具体的な義務の内容は、労働者に1年間で必ず5日以上使わせなければならないというものです。この1年間というのは入社してから半年経過した日から数えて1年ごとです。

 

 また、5日以上というのは、労働者が自分で使った有給休暇と合計して5日以上ということです。つまり、労働者が自分で有給休暇を2日使っている場合には3日以上ということになります。

 そして、使用者がこの義務に違反したときは、30万円以上の罰金に処せられる可能性もあります。

 

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