2026.06.10
弁護士 宮本亜紀
従兄弟(いとこ)は相続人じゃない!けれど遺産を受け取れる可能性もある
ある高齢男性Aさんは、もともと一人っ子で兄弟姉妹はおらず、子どもに恵まれず妻と2人暮らしで、定年までしっかり働き、夫婦の老後の資産は充分でしたが、予想外に妻に先立たれてしまいました。
近所の方と親しくしていたので、急病で倒れた時に隣人が救急車を呼んでくれて入院できましたが、病院から緊急連絡先を決めてほしいと言われ困りました。緊急連絡先は、保証人とは違って入院費用の支払い義務まではありませんが、容体急変などの連絡まで隣人に頼めず、幼い頃に遊んであげた10歳下の従弟に連絡をとってみました。年賀状のやり取り以外は40年以上付き合いが無かったのですが、近年に2回ほど親族の葬儀で顔を合わせたら、お互いになんとなく親しみを覚えた仲でした。
従弟のBさんは、とりあえずお見舞いに行きAさんの弱った姿を見て、幼い頃に遊んでもらった恩返しだと思い、緊急連絡先になることを承諾しました。
ほどなくAさんは退院して高齢者施設に入ることになり、Bさんは退院調整から施設入所手続等に立ち会って身元引受人になりました。それ以後Bさんは、月2回程度、Aさんの通院に付き添って帰りに喫茶店に入ったり、買物や用事を頼まれたりして付き合ってきました。
そうして8年経ってAさんが亡くなり、Bさんが葬儀を挙げ、急いで施設退去の片付けをしました。しかし、BさんはAさんから預かっていた自宅の鍵や施設にあった荷物の中の銀行通帳を見て、はたと、これをどうすればいいのかわからないことに気付きました。Aさんは遺産についてBさんに何も話をしていなかったのです。そこで、Bさんは弁護士を訪ねました。
Aさんは、遺言書を作っておらず、配偶者・子・親・兄弟姉妹がいないので法定相続人が不存在となり、遺産は国庫に帰属するのが原則です。近い親族が従兄弟(いとこ)しかいなくても、従兄弟では当然に相続できないのです。しかし、法定相続人がいない場合でも、被相続人(亡くなった方)と生計を同じくしていた者(内縁の配偶者など)、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者には、家庭裁判所は、遺産の全部又は一部を与えることができます(民法958条の3)。
そこで、Bさんは弁護士に依頼して、まず家庭裁判所に「相続財産清算人の選任申立て」をしました。そして、相続財産清算人が清算人の選任と相続人捜索の公告、その間に請求申出の催告をする期間(6か月)を待って、「特別縁故者に対する相続財産分与の申立て」をしました。そうすると、清算人がAさんの遺産の全部を調査し換価処分や債権債務を清算し、同時にBさんの功績をしっかり調査した上で、BさんのAさんに対する援助(労力の負担、経済的な負担、精神的な援助)は介護に類するとして評価してくれ、裁判所もそれを認めて、遺産の一部を分与してくれました。
法定相続人のいないAさんは、晩年に頼ったBさんに感謝して遺言書を作っておけば、裁判所を通さずとももっと早く、金額も自由にBさんに分け与えられたのですが、遺言書がなくても、このような裁判所の手続を経て、Bさんは特別縁故者として遺産をもらうことができました。
