相談事例

賃貸借

【借家の修繕】

 木造建物を住居として賃借していますが、雨漏りがします。この修繕を家主に求めることができますか

 家主には、借家人が契約に従って建物を利用できるように配慮する義務があるため、建物が傷んで借家人に不都合な状態が生じてきた場合、家主が修繕義務を負うのが原則です。
 建物の基礎、屋根、壁、柱など建物の基本構造に関わる部分の修繕義務が家主にあることは概ね争いがありません。建物の老朽化が激しく、修繕をするために極端に高額の費用がかかるような特別な事情でもない限り、家主に対し修繕を求めることができます。
 家主に修繕を求めたにもかかわらず、家主が応じてくれず、やむなく借家人の費用負担で行った場合には、借家人は、後日、その修繕費用を家主に請求することができます。
 ちなみに、建物の基本構造に関する修繕ではなく、障子の張り替えなど小修繕といわれるものについては、借家人が家主の同意を得ることなく行うことができると定められているのが通常です(賃貸住宅標準契約書など)。

【賃料の減額請求】

 家賃が高く、家主に減額を求めたいと考えています。どのような手順を踏めばいいですか。

 まず、家主に対し、翌月分からの家賃減額請求の意思表示をします。後に争いにならないよう、内容証明郵便によるのが無難です。
 家主との間で話がまとまれば、それで解決を見ます。
 家主が応じない場合、すぐに裁判を起こすことはできず、簡易裁判所に家賃減額を求める調停を申し立てる必要があります(調停前置(ぜんち)主義といいます)。
 調停では、通常2名の調停委員(うち1名は不動産鑑定士の資格を持った委員が担当してくれることもあります)が当事者双方から事情を聞き、互いに譲り合って解決できるかどうかが試みられます。調停が成立すればそれで解決です。
 調停が不調に終わった場合、家賃減額の裁判を起こすことになりますが、一定の経費(鑑定費用、弁護士に依頼する場合はその費用など)が必要となりますので、弁護士とよく相談することをお勧めします。
 家賃減額請求の意思表示をしたからと言って、借家人が一方的に減額した家賃を支払うことは認められません。それを強行すると家賃の一部未払とされて契約を解除されることがありますので、ご注意ください。あくまでも、従前どおりの家賃を支払いながら、上記のような手順を踏んでいくことが必要です。ただし、減額が認められた場合、支払額と決定額との差額及び差額について支払時から年1割の利息の返還を求めることができます(借地借家法第32条第3項)。

【内縁関係と借家】

 内縁関係であった夫が亡くなりましたが、夫名義で借りている住宅は明け渡さなければいけませんか。

 内縁関係の場合、住宅に継続して居住できるかについては、夫に法定相続人がいる場合と相続人がいない場合で違ってきます。

 まず亡くなった夫に法定相続人がいない場合、借地借家法第36条において「事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。」としていますので、あなたは明渡しをする必要がありません。
 つぎに法定相続人がいる場合ですが、夫の賃借権を相続人が相続したあと、相続人から明渡しを迫られることが考えられますが、裁判例では多くの場合、賃貸住宅の相続人が、機械的に、住宅に困る内縁関係の他方当事者に対して明け渡しを請求するのは明渡請求権の濫用にあたるとして排斥している例もあります。

 畳が汚れたとか壁クロスがくすんだ等、普通に居住することによって床や壁が汚れたり傷ついたりした場合や経年変化による損傷の修繕費用は、家主が負担すべきもので、この金額を敷金から差し引くことはできません。
 ただ、通常の範囲を超えた乱暴な使い方で床や壁などが汚れたり傷ついたりした場合の修補代金は控除されることがあります。
 国土交通省が作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、原状回復義務を負う場合や、原状回復の範囲、借家人が負担すべき部分の具体例および基本的な考え方が掲載されています。
 敷金の返還について、家主と話し合いがつかない場合は、少額訴訟や民事調停などの手続を利用して請求する方法もあります。
【借家契約の解除】

 建物を賃借していますが、家主から契約を解除されるのはどんな場合ですか。

 借家契約が解除される原因は様々ですが、代表的なものを挙げるとつぎのようなものがあります。
 第一に、家賃の不払いです。
 第二に、家主の承諾を得ることなく、借家権を第三者に譲渡したり(無断譲渡)、第三者に又貸しした(無断転貸(てんたい))場合です。
 第三に、契約書に定めた目的や使用方法に違反した場合です。住居として賃借したにもかかわらず、営業用の店舗として利用したような場合がこれに該当します。
 第四に、信頼関係破壊と言われる場合です。連日、深夜に大きな騒音を出し、他の入居者から苦情を言われた家主が再三再四注意したにもかかわらず、改善がされないような場合がこれに該当します。
 契約書に定められた使用方法に従って使用し、家賃をきちんと支払ってさえいれば、契約を解除されることはありません。

【建物明渡請求】

 所有アパートを賃貸していますが、入居者が家賃を数か月分滞納しています。再三督促しましたが、一向に支払ってくれません。出ていってほしいのですが、どのような手順を踏めばいいですか。

 家賃不払いを理由に賃貸借契約を解除し、建物明渡し請求をすることになります。
 通常、まず内容証明郵便で、一定期間を定めて滞納家賃の支払いを求めるとともに、その期間内に支払いがなければ賃貸借契約を解除する旨の意思表示をします。もし、期間内に支払いがなければ、賃貸借契約は解除されたことになります。
 もっとも、賃貸借契約が解除されたからと言って、あなたの一存で、入居者の家財道具を搬出して空室にすることはできません。
 裁判所に、建物明渡し、滞納家賃の支払い及び契約解除から明渡しが終わるまでの家賃相当損害金の支払いを求める訴訟を提起し、判決等に基づいて強制執行することが必要であり、このような法的手続によらず実力で明け渡しを強行することは、違法な自力救済として許されません。
 ちなみに、契約書に「1か月分滞納すれば直ちに解除することができる」旨の定めが記載されていることがありますが、その定めがそのまま通用することは通常ありませんので、ご注意ください。

【建物を明け渡す場合の原状回復の範囲】

 引っ越しのため、10年間住んだ賃貸マンションを明け渡したのですが、管理会社から、「借家人には原状回復義務がある。借りた当時の状態に戻す必要があるから、壁のクロスの張替え費用等を支払え」と言ってきました。支払わなければいけませんか。

 建物の賃貸借が終了した場合、借家人は、原則として、賃借した当時の状態にして建物を明け渡すことが必要です。原状回復義務と言われるものです。
 しかしながら、住居として使用している場合、壁のクロスが黄ばんだりするのは「通常損耗(そんもう)」や「経年変化」といわれるものであり、これは原状回復義務の範囲から除かれますので、管理会社の要求に応じる必要はありません。契約書に、通常損耗や経年変化による原状回復を借家人が負担すると定められていたとしても、そのような合意が成立したとは評価されず、また、消費者契約法10条により無効になると考えられています。
 他方で、店舗としてビルの一室をスケルトンの状態(がらんどうの状態)で賃借し、明渡時にスケルトンの状態に戻す旨の合意をしている場合は、そのような合意も有効に成立していると考えられ、その合意に従って明け渡す必要があります。

【定期借家とは】

 賃貸物件を探していますが、家賃が相場より安めで、定期借家の物件がありました。一般の借家とどう違うのですか。

 一般の借家でも通常は2~3年といった期間の定めがなされます。しかし、その期間が満了しても、正当な理由のない限り、契約は更新され住み続けることができます。
 ところが、定期借家の場合は、予め定めた期間が満了すれば、再契約がされない限り、必ず明け渡しをしなければなりませんので、この点を十分に理解して契約するかどうかを決める必要があります。
 なお、定期借家契約を結ぶには、①契約書の中に期間の定め及び期間が満了すれば契約は更新されない旨の定めをする、②公正証書による等書面によって契約する、③家主が借主に対し、契約書とは別に、期間が満了すれば契約は更新されないことを説明した書面を交付することが必要です。

 契約書に更新料を支払う旨の特約がない場合には、法律上更新料を支払う義務はなく、地主に明け渡しを求めるだけの正当事由がなければ、借地契約は更新さ れることになります。ただし、地主との安定した関係を維持するため、一定額を支払って、合意更新する場合もあるようです。
 他方、契約書に更新料を支払う旨の特約がある場合には、解釈が分かれていますが、金額が相当であると考えられる場合、特約を有効として、更新料の支払義 務を認める裁判例が多いようです。そして、裁判例の中には、更新料を支払わなければ、契約の解除ができるとするものもあるため、注意が必要です。

【借地契約の解除】

 10年前から土地を借りて建物を建てています。地主から契約を解除されるのはどんな場合ですか。

 借地契約が解除される原因は様々ですが、代表的なものを挙げるとつぎのようなものがあります。
 第一に、地代の不払いです。
 第二に、地主の承諾を得ることなく、借地権を第三者に譲渡した場合(無断譲渡)です。
 なお、借地権の譲渡につき、地主の承諾が得られない場合、裁判所に対して、地主の承諾に変わる許可を求めることができますので、事前にその手続きをとれば問題はありません。ただし、地主に承諾料を支払ったり、条件変更(地代の増額等)をする必要が生じる場合があるので注意が必要です。
 第三に、たとえば、当初の契約で増改築を制限する定めがなされているにもかかわらず、地主の承諾を得ることなく、建物の増改築を行ったような契約条件違反の場合です。
 上記のような増改築制限の定めがあっても、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可を求めることができますので、事前にその手続きをとれば問題ありません。ただし、地主に承諾料を支払ったり、条件変更(地代の増額等)をする必要が生じる場合があるので注意が必要です。

【地代不払いと建物収去土地明渡請求】

 借地契約を結んで土地を貸しており、土地上に借地人の建物が建っています。ところが、地代の不払が続いています。どうすればいいですか。

 地代不払いを理由に借地契約を解除したうえで、建物収去土地明渡請求をすることになります。
 通常、まず内容証明郵便で、一定期間を定めて滞納地代の支払いを求めるとともに、その期間内に支払いがなければ借地契約を解除する旨の意思表示をします。もし、期間内に支払いがなければ、借地契約は解除されたことになります。
 借地契約は解除されても、土地上には建物が建ったままの状態が続きます。そこで、裁判所に、建物収去土地明渡し(土地上から建物を撤去して更地にする)、滞納地代の支払い及び契約解除から土地が明け渡されるまでの地代相当損害金の支払いを求める訴訟を提起することが必要です。

【定期借地とは】 

 一般の借地と定期借地とはどう違うのですか。

 一般の借地の場合、期間を定めたとしても、正当な理由がなければ、期間満了時に土地を明け渡す必要はなく、契約は更新されます。
 ところが、定期借地の場合、期間が満了すれば契約は終了し、契約は更新されません。この点に注意が必要です。
 なお、定期借地には次の三つの類型があります。
 第一は、一般定期借地で、50年以上の期間を定めるものです。公正証書による等書面による必要があります。
 第二は、事業用定期借地です。もっぱら事業用建物を所有することを目的として、10年以上50年未満の期間を定めるものです。郊外型大型店舗などはこれにあたることが多いでしょう。この場合、必ず公正証書による必要があります。
 第三は、建物譲渡特約付借地です。予め30年以上の期間を定め、期間満了時に地主が借地人の建物を買い取るもので、借地人は更地にして土地を返す必要がありません。この点、一般定期借地や事業用定期借地と異なります。

【駐車場の浸水被害についての貸主の説明責任】

 地下駐車場を借りていたところ、集中豪雨で冠水して自動車が被害を受けました。この地下駐車場は、過去にも度々浸水が起きていたのに、契約時に貸主からは何の説明もありませんでした。知っていれば、借りていませんでした。自動車の被害について、家主に責任追及できないのでしょうか。

 賃貸人は、目的物である不動産について正確な情報を提供すべき信義則上の義務を負っているといえます。特に、賃借人が消費者で賃貸人が事業者である場合には、賃借人が契約内容を理解できるよう必要な情報を提供すべきです(消費者契約法3条1項)。
 そのため貸主は、本件の浸水被害のような、賃貸借契約をするかどうかの判断に重要な影響を与える事実関係については賃借人に説明すべき信義則上の義務を負っており、このような説明をしなかった場合には、不法行為による損害を賠償すべきです。
 貸主に請求できるのは、説明義務違反と相当因果関係を有する損害の賠償になります。事前に説明がなされていれば、賃貸借契約をしなかったと考えられるのであれば、契約に際して支出した費用などが、これに当たります。自動車が水没して廃車となったことによる損害も、相当な範囲に含まれるといえるした裁判例(名古屋地裁平成28年1月21日判決・判例時報2304号83頁)もあります。


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