2026.08.19
弁護士 横山精一
自宅不動産にその評価を上回る住宅ローン債務がある場合の財産分与の額及び方法に関する令和6年8月21日大阪高等裁判所の判決について(判例タイムズ)No.1539 60頁)
(離婚の際の財産分与について)
離婚の際の財産分与とは、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算するものです。
これについては、一般的には、夫婦の各名義の純資産(積極財産から消極財産を引いたもの)の差額の2分の1を、純資産の多い方から少ない方に分与するものとされています。
例えば、夫名義の純資産が2000万円、妻名義の純資産が1000万円である場合、両者の純資産の差額である1000万円の2分の1である500万円を、夫から妻に分与することになります。
それでは、婚姻中に、夫の名義で自宅を購入した場合はどうなるでしょう。
今回紹介する東京高裁の事案では、夫名義の財産は、約1570万円(自宅マンションが約493万円、退職金が約996万円)であり、負債は約1763万円(うち住宅ローンが約1663万円)でした。これを、前述のようにして夫の純資産を計算すると、マイナス193万円(1570万円-1763万円)となり、夫から妻に対する財産分与は0となります。
そこで、妻は、自宅マンションと住宅ローンは財産分与から外して、のこりの夫名義の財産財産の2分の1を分与すべきであると主張しました。
しかし、これでは、オーバーローンの自宅マンションを夫一人で負担することを強いられるとともに、それを外した積極財産の2分の1を妻に渡さなければならなくなり、公平を害することになります。
原判決は、このような判断から、夫婦おのおのの積極財産の総額から夫婦おのおのの消極財産の総額を控除した残額を比較して行うべきであると判断し、妻の申立を却下しました。
では、以下のようなケースはどうでしょうか。
夫名義のマンションが1000万円、夫名義の住宅ローン残額が2000万円、妻の財産が1000万円とします。
上記の原判決の基準では、夫婦の積極財産の総額が2000万円から、夫婦の消極財産の総額2000万円を引くとゼロになる。そこで、妻名義の1000万円を夫に支払うことになります。もともと、夫婦のプラスの財産が2000万円で、負債が2000万円なのだから公平であるとも言えます。
しかし、妻の立場からすれば、自宅マンションは夫の名義のままで、更に自分名義の財産全部を夫に渡すことになり、不公平を感じるでしょう。
ですから、原審で、妻は、オーバーローンのマンションは、残債分与の対象からはずべきだと主張したのだと思います。
これが通れば、妻の財産1000万円を2分の1ずつで分けて、妻から夫に500万円を渡すことになります。妻からすれば、自分名義の財産の半分を夫が受け取れば十分だろうという気持ちになってもおかしくありまません。
しかし、夫からすれば妻から500万円を受け取って、これを住宅ローンの支払に充てても、住宅ローンはまだ1500万円残っており、マンションの価値は1000万円なのですから、結局自分の財産はマイナス500万円、妻の財産はプラス500万円となり、不公平だと感じることでしょう。
このように、オーバーローンの自宅がある場合、立場により、利害が異なり、主張も異なってきます。
このような、難しい件についての控訴審である大阪高等裁判所の判断は、以下のとおりです。
(大阪高等裁判所令和6年8月21日判決の判断)
原判決に対して、妻は、財産分与に関する判断部分等を不服として、控訴しましたが、控訴審判決は、妻の控訴を棄却しました。
①妻の主張に対して、「離婚における財産分与は、夫婦が婚姻期間中にその協力によって得た全ての財産(積極財産及び消極財産)を総合考慮して算定するものである以上、それらの評価額を通算して財産分与の額及び方法を定めることが相当であると解される」(ここまでは、原判決と同じ理由付けです。)
②住宅用不動産については、離婚の成立後の住宅ローンの支払い分が「財産分与により当該不動産を取得する配偶者にとってその取得のための対価的性質を持つ側面もあると言える」(住宅ローンは自分が獲得した自宅の為のものでしょうということです)として、
③「上記(①)のような清算方法によったのであれば財産分与における当事者間の衡平を害すると認められる場合には、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当該事情を民法768条3項の『一切の事情』として考慮して、上記清算方法と異なる財産分与の額及び方法を定めることにも合理性が認められるというべきである。」としました。
④そして、「財産分与における当事者間の衡平を害する事情」の例として「①不動産を取得できない配偶者において、当該不動産からの退去を余儀なくされる上、分与され得るべき財産が存在せず、あるいは離婚後の生活が困難となる程度に分与額が少額となるような場合において、②他方の配偶者が、所有名義人として不動産の使用収益を継続しつつ、離婚後の収入及び取得財産によって住宅ローン債務を返済することで最終的に負担のない同不動産の所有権を取得し、あるいはこれを処分することで一定の利益を得る相当程度の蓋然性が認められるとき」というものをあげています(下線、①②は引用者)。
⑤ただ、本件については、そのような事情が認められないので、妻の主張は採用できないとしました。
(補足説明)
オーバーローンの自宅が財産分与の場合には、その立場により、考え方が異なってきます。
原則的には、両者の積極財産と消極財産を差し引きして衡平を図りつつ、その手法では衡平を図れないことがあることは、説明のとおりです。
東京高裁の判決もそのような点を考慮して「一切の事情」により基準の修正をする可能性を示唆しています。
以 上
