ことのはぐさ

2011.12.06 弁護士 横山精一 | 伝記を読む


 11月の初旬、水俣病近畿訴訟解決の記念旅行として大連に行ってきました。2泊3日の短い旅行でしたが、現地のコーディネーター役をして下さった弁護団のN先生の計らいで楽しい旅行となりました。

<街の印象>
 大連は道路も広くて建物も立派でずいぶん都会だなという印象です。市街中心部に行くと、若い人たちのファッションは日本と大差なく、マクドナルドはもちろんケンタッキーもあったりして、街の景観は日本の繁華街と全く変わりません。人々の生活水準もかなり高くなってきているのがうかがえました。
 また、市内に黒の外国製高級車が目白押しなのには驚きました。関税がかかっているため日本車でも倍くらいの値段になると聞いていたのに、立派な車ばかり走っているので、相当数の富裕層が存在しているようです。また、日本と違って軽自動車などほとんど走っておらず、みな少し成功すると立派な車に乗りたがるのだなと思いました。
 更に、中国というとまず思い浮かぶのは大量の自転車ですが、大連では自転車に乗っている人はほとんどいませんでした。バイクも少数派のようです。長い冬には乗れないというのが普及していない理由でしょうか。
 信号も要所要所にしかなく、しかも日本と違って赤信号でも右折可(中国は右側通行)なので、横断には注意が必要です。車の切れ目を狙って道路を横断するのが現地流です。

<中国の弁護士さんと食事>
 到着日は市内の繁華街を散策したあと、中国の弁護士さんお二人をお招きして食事をしました。日本語のお上手な方で、中国の裁判事情を詳しくお聞きすることができました。
 その中で一番印象に残ったのが、「裏の門」(賄賂)の話でした。要するに裁判と賄賂のお話しで、いろいろ伝え聞いてはいたものの半信半疑だったことがやはり事実だったと分かりました。すべての訴訟で賄賂が使われているのかというとそうではないでしょうが、決して少なくない割合で裁判官に賄賂がわたっているようでした。渡し方はいろいろなようですが、勤務時間後に飲食の接待をし、そこで高級品(お酒やたばこなど換金性のあるもの)や場合によっては現金を渡すというのが一般的なようです。刑事事件では、裁判官だけではなく検察官にも裏の門を使うそうです。というのも、裁判官に裏の門を使って量刑を負けてもらっても、検察官に控訴されると意味がないので、「控訴しないでね」という意味で裏の門を使うそうです。弁護士の仕事は、法廷で法的な主張をすることはもちろんですが、裁判官をうまく接待して裏の門を使うことに大きな比重があるという印象でした。依頼者のほうも心得ていて、裏の門を有効に使えるツテのある弁護士を捜すそうです。着手金も、裏の門にいくらかかるか胸算用をしながら金額を提示する、ただその中でいくら裏の門に使うとまでは説明はしないけれど、依頼者もそのことは織り込み済みだとのことでした。
 このような状態なので、庶民の司法に対する信頼はあまり高くないようで、それを反映してか、弁護士の社会的地位もずいぶん低いと嘆いておられました。
 ただ、このように裏の門が幅をきかせるようになると、結局は金とコネを持っている者が勝つことになり、貧富の差の拡大と相まって社会の不平等感を増大させることになるのではないかと危惧をします。
 しばらく前に中国でひき逃げされた幼児を誰も助けなかったことが非難を浴びましたが、その一つの理由として「事故の被害者を下手に助けて逆に犯人にされ、 裁判で損害賠償を取られた」実例があり、そのような情報は携帯とネットを通じてあっという間に広がっていて、「そういうときは助けずに警察に連絡すべし」 というのが既にコンセンサスになっているとのことでした。件の幼児を助けたのはゴミ収集をしていた最下層の女性でしたが、彼女はネット環境にアクセスして いないからそういうコンセンサスを知らなかったんだという指摘もありました。
 結局、中には当たり屋のような人もいて、下手に助けて犯人にされても司法は助けてくれない、だから見て見ぬふりをするか、せいぜい警察に連絡するにとどめる、ということのようで、司法での法の支配が実現されていないことの大きな弊害が端的に表れた事件だと思います。

<旅順観光>
 翌日は朝から旅順観光に出かけました。バスでの移動でしたが、日本語の上手な男性ガイドさんがついてくれました。そのガイドさんの話から、図らずも前日の「裏の門」を裏付けるような話が聞けました。
 彼は大学を卒業するとき、公務員になりたかったそうです。なぜかというと、公務員になれれば一生安泰だからです。そこで試験を受けるのですが、いつも試験では一番なのに何度受けても採用されなかった。それは裏の門を使えなかったからだ、というのです。お金も人脈もなかったということなんですね。
 それで旅行会社に就職した。最初は公務員になった友達よりも高給だったので、一緒に食事をしても全部自分が払っていたが、やがて過当競争で給料は低くなり、他方で公務員の同級生は裏の門からの収入だけで生活費はこと足り、国から出る給料は使わなくてもすむ状態となり、経済的に全く逆転してしまった。だから今は食事に誘われても行かない、と言ってました。
 彼はバスが走り出して一番最初に「自分はガイドになった最初の頃は、なんで自分がこんな仕事をしているのか全く意味が分からなかった」と前置きをして、今述べたような話を始めたので、一体何を言い出すのかと心配して聞いていたのですが、「今では日本人の観光客の皆さんに日本と中国の歴史の話を解説しながら、日本と中国の橋渡しをするのが自分の仕事なのだと使命感をもってやっている」と話してくれました。
 旅順への道のりは、バズで1時間半くらいでしょうか、郊外を走ったのですが、至る所で大規模な建設工事が行われていて、まるで一時期の日本を見るようでした。
 旅順駅や203高地を見学しましたが、旅順観光をするのはほとんど日本人だけだそうで、考えてみればそれも当然です。戦争に負けたロシア人が尋ねてもおもしろいところではありませんし、中国人にしてみれば自分の国土で外国が勝手に戦争をしていたわけで、はた迷惑な話ですから、わざわざ尋ねる人もいません。 日本では「坂の上の雲」の放送で人気ですが、これが下火になれば旅順観光も低迷するかも知れないな、その時はあのガイドさんはどうするのだろうなどと心配しましたが、何しろタフな人たちですから、強く生き抜くに違いないと思います。

<最後に>
 大連という、巨大な中国のほんの一部の地域を駆け足で見ただけのことなので、私の感じたことがそのまま中国全体に当てはまるものではないことはもちろんですが、中国の弁護士さんから直接お話を聞くことができ、事実の一端に触れることができたのは貴重な体験でした。
 また、今の中国は貧富の格差が拡大し、社会矛盾が深まりつつあるように見えますが、そこに暮らしている中国の人たちは決して不満ばかり口にしているのではなく、むしろ将来に明るい展望をもっているように感じました。国力は上向きで、国民も自信を持ちつつあることがよく分かりました。
 テレビや新聞報道で接する中国という国には、いろんな面で苛立ちを感じることもあるのですが、実際に短い間でも旅行をしてみるとまた違った印象がありました。報道だけでは決して本当の中国の姿はわからないな、と気づかせてくれた旅行でした。


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