ことのはぐさ

2025.02.03 弁護士 宮本亜紀|日々の子育ての中で子どもの権利を考える


 私は子育てをする中で、誰もが安心して子どもを生み育てながら働け、子どもたちが健やかに成長すること、保育士や学童保育指導員もいきいき働き続けられることをめざす保育運動の団体にも関わっています。

 

 2024年度から、保育士一人が受け持つ子どもの数を国が定める「配置基準」が改善されました。4、5歳児は30人から25人となり、3歳児クラスは20人から15人にとなりました。この見直しは1948年の定め以来76年ぶりでした。これは、各地で保育事故や不適切保育の報道が相次いで社会の関心が高まり、2023年4月にこども家庭庁ができて政府の「こども未来戦略」に盛り込む少子化対策に国家予算が付いたことからできましたが、それ以前から長く長く現場の保育士さんや保護者達が切実な声を上げ続けてきたことの成果でした。

 

 それでは、実際に配置基準が変わって保育の現場が良くなったかと問われると、現場の保育士さん達の実感はそれほど変わらないとのことです。なぜなら、国の最低基準では全く人手が足りないので、自治体で独自の予算を付けてより手厚い基準で運営できていた所がいくつか、それ以外はパートタイムの非常勤保育士を多く雇用するなど、園が人件費を負担するなど保育園内の努力で保育士の人数を増やして運営されてきていたからです。また、ただでさえ保育士不足で求人しても応募が少なく人数を確保できないことから、政府が「一定期間は元の配置基準でも良い」という経過措置を期限無く設けているので、新しい基準通りにはできていない例も少なくないのです。

 

 そして、2024年は子どもの権利条約を日本が批准して30周年でした。子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)とは、世界中の子どもたちが、安全な環境で、安心して、自分に自信をもって生活ができるために守られるべき権利について定めたもので、日本を含む批准国の政府に、その実施を求める法的拘束力のある国際法です。しかし、日本はその条約を国内で具体化していく方針となる「こども基本法」が2023年に施行され、現在、各自治体が実施計画を策定している最中という状況です。子どもの権利条約の4原則①差別の禁止、②子どもの最善の利益、③生命、生存および発達の権利、④子どもの意見の尊重ですが、日本は国連から「日本は子どもを権利と持つ人として尊重しない伝統的な見方があり、子どもの意見に対する考慮を著しく制限している」と指摘を受けています。確かに、私自身でも、日々の忙しい生活の中で、子どもの意見を聞かずに大人の都合だけで決めているかもしれないとドキッとさせられます。近い将来さえ見通せない不安定な社会の中で、子どもをどう育ててやったら力強く幸せに生きていける人間になってくれるだろうかと模索している中で、大人の考えを子どもに押しつけているのではないかと不安になります。

 

 これは、単に子どものワガママを聞くという話ではなく、保育園児のような幼い子どもにも意見はあり、その年齢に見合った形で活かしていくということなのです。②子どもの最善の利益を大人が考えることは重要ですが、親、保育士や教師等の立場によって多面的な見方がありますし、「最善」を考える際には、④子どもの意見を充分に聴き取って一緒に考えて行くことが大事だと改めて気付きました。

 

 10年ほど前から、親が働くために保育園に入りたい、でも保育園の定員が少なくて入れないという待機児問題が続いて、保育の「量」を増やす政策は一定程度行われましたが、保育の「質」がなおざりになってはなりません。コロナ禍で登園する園児が半分になった時、保育士が園児一人一人に向き合えて、その思いを丁寧に聴き取る余裕ができて、かなり理想的な保育ができた!という声がありました。配置基準を半分にするぐらいの大きな改革の実現をめざして、保育士が責任に見合った給料を得てやりがいを持って仕事が続けられて保育士不足が無くなるように、そして子どもを人として尊重する社会をめざして、保育を良くする運動に今後とも関わっていきたいと思います。


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