ことのはぐさ

2023.04.10 弁護士 岩田研二郎|同性婚とLGBTQの性的マイノリティのこと(後編)


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LGBTQの性的マイノリティについて

 私が、LGBTQの問題をはじめて勉強をしたのは、大阪弁護士会の男女共同参画推進本部の本部長代行についた2012年のことです。研修チームのメンバーの提案で開催した「セクシャルマイノリティについての学習会」で、NPO法人のヒューマンライツナウ関西の方を講師にお招きし、「グラデーションのような性の多様性」ということを学びました。

 翌年2013年には、大阪のアメリカ領事館総領事として来日されていたパトリック・ジョセフ・リネハンさん、この方はご自身が同性愛者(ゲイ)であることを公言し、同性のパートナーを伴って赴任されていましたが、この方の講演会も本部主催で実施しました。リネハンさんは、オバマ大統領が就任演説で同性愛者の権利について直接言及するにいたったことやアメリカにおけるLGBTの権利の進展について話してくださいました。

 私も、それ以来、LGBTの問題については関心を持ってきましたが、「同性婚」については、あまり勉強をしないままで今日にいたりました。

 

ふたつの学び

 一昨年の秋、近畿弁護士会連合会の同性婚問題のシンポジウムやテレビ番組でふたつのことを学びました。

 第一は、NHKで「ジェンダーサイエンス」という番組がありました。ご覧になった方もあるのではないでしょうか。そこでは、人間の脳に関する科学が進展し、脳の部位で「海馬」など男女で平均的に大小が異なる10カ所の部位の大きさに着目し、個々の脳をみると、生れながらに男性よりの脳、女性よりの脳といえる脳が10%はあるが、90%は男女の特徴をあわせもったモザイクのような脳で、男性らしさ、女らしさをあわせ持ち、どちらかに分けられるものではないことがわかってきたようです。男性でも、赤ちゃんをあやしていると、男性ホルモンの分泌が減少するようで、男性でも、育児をすることで、女性的なものを獲得できる。男らしさ、女らしさと呼ばれるものは、置かれた環境が、後天的に形成するに過ぎないこと脳科学のシンポでわかってきたようです。

 このような脳科学により、性の多様性の原因が何かということが、みんなに理解されれば、「グラデーションのような性の多様性」というLGBTQ問題への理解も深まってくるはずです。

第二は、近弁連人権擁護委員会の夏期研修会で、家族社会学を研究されている久保田裕之さんの講演をお聞きしました。それを聞いて、自分がいままで「異性婚」の世界から「同性婚」というものを眺めており、とても狭い物の見方をしていたことを痛感いたしました。

 久保田先生は、アメリカのエリザベス・ブレイクという倫理学者の「最小の結婚」(突き詰めれば、「最も核になる結婚の要素」ということでしょうか)(Minimizing Marriage)という本を紹介し、「現行の婚姻制度は正義にかなったものか」「そうでないとすれば正義にかなった婚姻とはどのようなものか」という問題提起をされました。

 日本の家族法が、「好きになった異性と結婚して子どもをつくり、同居して夫婦で子を育てる」という家族を、法的に保護する完全パッケージの複合体として位置づけていること、その代わり、性生活、生活をケアする扶養、共同生活の維持などの場面で、夫婦がいろんな権利義務やルールで拘束される仕組みとなっていることを強調されました。

 

多様な家族のありかた、そしてフランスの民事連帯契約

 私は弁護士として多数の離婚事件を担当し、いろんな夫婦や家族の生き方に触れてきました。離婚原因をみると、その多くが、この完全パッケージの権利義務やルール全部を守っていくことが、どちらかまたはどちらもできなくなったことによるもののように思います。しかし、人間はそもそも多様なもので、本当は、もっと多様なパートナーシップ、ファミリーシップのありかたがあるはずです。しかし、異性婚の法律婚だけが法的に保護されているがために、多様な家族のありかたが異端とされてしまいがちです。

 フランスでは、PAX(パックス)という、同棲状態と結婚の中間に位置するパートナーシップを保護する法制度(民事連帯契約というそうです)ができているそうです。もともとは同性の内縁カップルの権利保護のためにできた制度が、いまでは異性カップルの間での利用が急増し、年間でみると、パックスを選択したカップルの数が結婚するカップルの数に迫る状況になっているようです。

 こうしてみると、同性婚の問題は、性的少数者だけの問題ではなく、多数の人々が営んでいる異性婚が抱えている問題も浮き彫りにし、異性婚のありかた自体にも、見直す点はないかということを私たちに問いかけているように思いました。

 結婚の自由を求めるひとたちの問題提起で、現在では、多くの民間企業で、家族手当や単身赴任手当、社宅への入居、介護・育児に関する制度、慶弔見舞金等、福利厚生の対象が同性パートナーに拡充され、多くの保険会社で、生命保険金等の受取人として同性パートナーを指定することが可能になる等、同性間の婚姻への理解が進んできたと思います。

 異性婚の世界から同性婚を眺めるのではなく、異性婚と同性婚を並列にならべて、そもそも家族のあり方、夫婦のあり方はどうあるべきかという大きな視点から、もう一度考えていくことが進んでいけばいいですね。

人を好きになるという気持ちに、異性愛、同性愛で変わりがないということへの共感を深めていくきっかけになることを期待しています。


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