ことのはぐさ

2025.05.20 弁護士 岩田研二郎|大統領弾劾で揺れる緊迫の韓国ソウルを訪ねて


 2025年3月24日から3日間、自由法曹団と韓国の人権弁護士団体である「民主社会のための弁護士集団(民弁)」との交流で、ソウルを訪れました。

 ちょうど非常戒厳を発令して弾劾審判にかけられているユン大統領の裁判が憲法裁判所で行われており、予想外に決定が延びている状況でした。弾劾賛成と反対の勢力が、街頭で集会やデモを繰り返していました。

 「ユン大統領が憲法裁判所によって弾劾されるのか、不安でならない」。3月25日昼間の自由法曹団の私たち16名への講演の中で、ハンギョレ新聞の吉(ギル)倫亨さん(論説委員、元東京特派員)の口から何度もため息がもれました。

 その4日前の3月21日のハンギョレ新聞の記事では「今ごろは尹錫悦大統領の罷免宣告がいつになるか、見当がついていなければなりません。弾劾訴追から100日が過ぎ、他の歴代事件と比べても最長期間を超えています」

 「大統領罷免のために13日間にわたりハンガーストライキを行っている「尹錫悦即時退陣・社会改革非常行動」のユン・ボクナム共同議長(民主社会のための弁護士集団代表)の声が座り込み現場に響き渡った。憲法裁判所の弾劾裁判審理が長引くにつれ、法律家や大学生、労働者など多様な市民たちが不安と懸念を訴えている。彼らは憲法裁判所の早期罷免を求める一方、激しくなる分裂と混乱に対する憂慮を示した。」

 3月7日には、ソウル中央地裁刑事合議25部、尹大統領側が申し立てた大統領の拘束取り消し請求を認容し、検察は抗告せず、釈放していました。これで弾劾反対派は勢いづき、憲法裁判所を取り囲み、ネットでも「オンライン世論戦」が繰り広げられ、憲法裁判所の自由掲示板は弾劾反対の声があふれる事態に。

 韓国ギャラップが3月11~13日に実施した電話インタビュー調査によると、「尹大統領の弾劾に「賛成」回答は58%、「反対」回答は37%で、依然として罷免すべきという世論が優勢だが、賛成は先週より2%減り、反対は2%増えました。 

 小幅ながら世論調査の数値が動いたのは、保守層の弾劾への賛成が先週より5ポイント減った24%に、弾劾反対が3ポイント増えた72%に変わったことの影響とみられる。」とのこと。

                                          弾劾反対派の集会

 

 3月24日にソウルに入った私たち自由法曹団の訪問団は、警察車両に守られる憲法裁判所付近を訪れ、弾劾反対派の集会の場に遭遇しました。大韓民国の国旗と星条旗を振って、歌を合唱しているのは高齢者が目立ちましたが、中年層、若い層もそれなりに参加しており、参加している人々のお顔を見ると、普通の市民たちでした。

 社会での孤立と生活苦、格差などの現状を見る必要があり、根深い問題がある。反対派の集会で一緒に旗を振ることで一体感を味わっているともいえるのではないかと言われました。民主化後に政治が変化しても、社会や人々の生活は悪くなっていることは、ハンギョレ新聞の「所得に比べ幸福度低い韓国人…1日2食は『ひとり』、隣人も『信頼できない』「『退職を余儀なくされ自営業へ』50歳以上の半数、最低賃金も稼げず=韓国」などの記事からもわかりました。

 そんな社会への不満が、先の大統領選挙で生活の変化を託したユン大統領の弾劾への反対や前政権を担った野党への政権復活への反対へ人々を駆り立てているのではないかと思いました。

                                          弾劾賛成派の集会

 

 夜は、19時30分から始まる光化門の弾劾賛成派のデモの現場に向い、デモの後を追いました。若い人が多いのか、デモのスピードは日本よりも早く感じました。30分ほどで出発地点の光化門に戻ってきたデモ隊は、そこでシュプレヒコールを20分ほど続けました。いろいろな旗がなびき、鳴っている音楽も、昼間の反対派の集会とは違い、韓国ポップ調の音楽。民主主義の力で弾劾を実現しようと奮闘する人々の大きな声が夜のソウルの空に響き渡っていました。

 3月25日夜に民弁の「少数者の権利委員会」も若手弁護士(女性弁護士が多く、全国1200名の民弁の女性弁護士比率は40%)との交流会があり、LGBTやヘイトスピーチ問題などをテーマに双方の現状の意見交換をしました。民弁の弁護士のみなさんは、夜の懇親会終了後、デモを防衛するために現場で頑張っている民弁の先輩弁護士のサポートに向かいました。あとでお聞きすると、現場では農民闘争団のトラクターを警察が強制撤去しようとし、デモを防衛して撤去の法的根拠を問いただそうとした民弁の弁護士に警察官が暴行を加え、重傷を負うという事態も発生したそうです。

 帰国後の4月4日に、憲法裁判所が、弾劾を認める決定を全員一致で出しました。判決が遅れ心配しましたが、市民の声が憲法裁判所にも届いたことに安堵しました。

 4月4日のTVで裁判官の顔ぶれを見ると、8名の裁判官のうち女性判事が4名と半数を占めているのに驚きました。決定を読むと、時間をかけて粘り強く議論し全員一致の結論を導いたことに、社会の分断を回避しようという素晴らしい法曹の知恵を感じました。(4月10日記)

 


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