ことのはぐさ

2023.04.20 弁護士 小林保夫|烏鷺の争い


「烏鷺(うろ)の争い」とは囲碁のことです。
古い言葉なので、今では余程の碁好きでも知らない人が多いでしょう。
「烏」はカラス、「鷺」はサギで、カラスの羽根の黒色、サギの羽根の白色から、黒色の碁石、白色の碁石を指す、一種の隠喩なのです。
 囲碁は、黒石と白石で19路四方の盤上、どれだけ多くの陣地を囲むかで勝敗を決する争いです。
勝敗の決し方が単純で、しかも勝敗までの道行きが複雑なことから、世界中に多くの愛好者がいます。

 

 私も「下手の横好き」の喩えどおりで、揶揄を免れませんが、熱烈な愛好者です。

 私は、おそらく、外国の碁会所で碁を打ったことや、何カ国もの外国人と碁を打ったことでは自慢できるのではないかと自負しています。
 イギリスはロンドンの、コベントガーデンという古い街の古い市場の3階の碁会所でイギリス人と烏鷺を戦わせたのは若い日のなつかしい思い出です。当時の日本のタバコの煙にけむる碁会所と違って、室内の澄んだ空気が今でも記憶に残っています。
 チェコスロバキアのプラハで、バスの車窓から、屋上に碁という漢字を○で囲んだ看板が掲げられている碁会所を発見した時は興奮を覚えたものです。

外国人との棋戦では、ロシアのモスクワで、バスツアーのガイドさんの紹介で、私が泊まっていたホテルに折り畳みの碁盤と碁石を携えて訪ねてくれたロシア人の愛好者と2番戦ったことがあります。私は、日本を遠く離れたこんな異国で、こんな愛好者と出会うことが出来た感激から、旅の路上での慰みに持参していた小林光一の碁書を贈呈して千載一遇の出会いに感謝の気持ちを表しました。なお、このロシア人は、小林光一が名人位などを持つ日本の高名な棋士であることをしっていました。
 また、私は、韓国の民主的な法曹との交流に際して、豪華な晩餐の機会を失いながら、かの国の壮年の弁護士と碁を打ったことがあります。
韓国は囲碁人口が多く、しかも賭け碁でも有名ですが、かの弁護士と先番を決めながら、「賭けますか。」と声を掛けられたのには驚きました。あとで、同弁護士は、弁護士の間でも賭け碁で若い弁護士から金を巻きあげることで有名であると聞きました。それぞれの国で囲碁をめぐる風習にも違いがあるようです。

 ちなみに、日本では囲碁は茶道にも通ずるような扱いを受けていますが、中国では囲碁ははっきりとスポーツの一つに位置づけられています。

 

 最後に、インターネット上での囲碁の国際性を紹介します。
 インターネット上、日本棋院が開設している「パンダネット」というサイトがあり、おそらく世界中で何万人という加入者を得ているでしょう。
私は、今では、高齢のため外国に行き異国の人たちと烏鷺を戦わせるという喜びを味わうことが出来ませんが、インターネット上での棋戦の愛好者です。
パンダネットには、日本・中国・韓国などのアジア諸国、南アフリカを初めとするアフリカ諸国、ドイツ・イギリス・フランス・イタリーなどのヨーロッパ諸国、ロシア・ウクライナ・クロアチアなどの東欧諸国、カナダ・アメリカ合衆国・ブラジルなどの南北アメリカ諸国など多くの国の愛好者が参加しています。何万回という棋戦の回数を重ねる外国人の参加者も少なくありません。 
 時差のせいで、ヨーロッパ、アメリカなどの愛好者は、日本の深夜に登場するのが普通です。
さて、参加者は、国内国外を問わず、それぞれ自分のニックネームを登録しています。例えばbgcaoさんは中国、brinchiさんはクロアチア、rabotchiさんはブラジルといった具合です。ほとんどの場合、それぞれのニックネームの由緒はわかりません。 
 かつて、インドネシアの参加者でorangutan(オランウータン)というニックネームを名乗る人もいました。
 私も、あるニックネームを登録しているのですが、かつて日本棋院の認定会では、ようやく5段という認定を受けているにもかかわらず、パンダネット上では戦績が芳しくないので明かす気持ちになりません。

2022年2月24日、突然ロシアがウクライナに侵攻し、今もたたかいが続いており、多くの犠牲者を生じている戦火のひどさ、悲惨さから世界中の多くの人たちが一刻も早い終結を臨んでいるのですが、容易に停戦にいたる見通しはありません。
ウクライナの戦場が拡がり、そこでは多くの砲弾が飛び交い、その度毎に多くの家屋が破壊され、多くの死者・傷者が出ていることが報じられ、胸がふたがる思いを禁ずることができません。
 実は、パンダネットのサイト上にもロシア、ウクライナ双方の愛好者が登場しています。
インターネットの盤上でのウクライナ、ロシアの参加者のたたかいは、まさにウ・ロの争いに止まり、平和なたたかいです。
 私は、しばしば、ウクライナの参加者のニックネームを見ない日は、戦火の犠牲になり、姿を消したのではないかと心配するのですが、数日して、またそのニックネームを見つけると、ひとまずほっとするのです。
 ほんとうに、争いは盤上での烏鷺の争いに止まって欲しいと願うこと切です。


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