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ことのはぐさ

2017.01.24 弁護士 峯田和子|従業員退職後の競業避止義務とその限界


1 従業員退職後の競業避止義務が認められるには
 競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)とは、従業員が会社・事業主と競合する企業に就職したり、自ら事業を営まない義務をいいます。会社等としては、従業員が企業秘密を悪用したり、得意先を奪うようなことをされては困ります。一般に、従業員が会社に在籍している間は、労働契約に付随する効果として、競業避止義務が認められます。
 では、従業員が退職した後にも、競業避止義務を課すことは認められるでしょうか。従業員にしてみれば、仕事で蓄積したノウハウを活かしてステップアップしたいという希望があっても当然ですし、憲法上職業選択の自由が保障されています。そこで、原則として従業員に退職後にも競業避止義務を課すには、就業規則や特約などが必要と考えられます。

 

2 就業規則等があれば、当然、競業避止義務が認められる?
 退職後の競業避止義務は、内容によっては従業員の職業選択・キャリア形成にとって大きな制約となってきます。そこで、就業規則等があったとしても、判例上、無制限に有効性が認められるわけではありません。就業規則等が必要かつ合理的な範囲に留まることが必要で、判例は、①禁止する目的や必要性、②退職前の従業員の地位・業務、③競業が禁止される業務の範囲、期間、地域、④代償措置の有無等を総合考慮して判断しているようです(奈良地判昭45,10,23判時624号、東京地判平14,8,30労判838号、福岡地判平19,10,5労判956号、東京高判平24,6,13労判ジ8号など多数)。
 例えば、東京地判平27.10.30判決の事案は、派遣会社Xに1年ほど所属し、A会社に派遣されていた従業員Yが、退職後別の派遣会社Bに所属し、A会社に派遣されて同種業務に従事したことについて、Xの就業規則に退職後3年間競業避止義務を負う旨の規定があり、Yが競業しない旨の誓約書等を作成していたことから、XがYに対して損害賠償を請求した事案です。しかし、裁判所は、従業員の退職後は競業避止義務を負わないのが原則であるとして、一定の場合、就業規則等が無効になり得るとし、
  ①Yが1年勤務したに過ぎないこと
  ②禁止期間が3年であること
  ③誓約書等には期間の限定が全くないこと
  ④Xが在職中、Yに対して残業手当等を支給していなかったこと
などを指摘し、就業規則等は過度の制約を従業員に課すもので公序良俗に反し無効であるとしました(判時2307号)。

 

3 就業規則等がない場合で競業避止義務違反が認められる余地があるか?
 では、就業規則等がない場合、従業員が退職後に行う競業に対し、損害賠償請求や差止請求をする余地があるでしょうか。
 最高裁判所は、従業員10名程度の会社Xに従事していた営業担当Y1と製造担当Y2が退職後、同種事業を立ち上げ、Xの取引先4社の受注を受ける様になった事案で、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元雇用者の顧客を奪取したとみられる様な場合」に不法行為として損害賠償請求が認められる余地は認めつつ、本件については自由競争の範囲を逸脱するものとはいえないと判示しました(最高裁判決平22年3月25日、判時2084号)。
 本件では、Yらの会社の売上高の8~9割がXの元取引先からの受注でしめられ、X社では、本件取引先の売上が従前の3割からY退職後は2割程度へ減少していましたが、裁判所が、損害賠償請求を否定した理由としてあげるのは次の要素です。
 ①Y1は勤務中に取引先に退職の挨拶をし、退職後同種事業をするので受注を希望する旨を伝えてはいるが、人的関係を越えてXの営業秘密に係る情報を用いたり、信用を貶めたりする等の方法で営業活動を行ってないこと
 ②本件取引先の内3社とは、退職後5ヶ月後からの取引であること
 ③退職直後からの取引である一社もX自身が同社に対する営業に消極的な面があり、Xとの自由な取引を阻害したとは言えないこと
 下級審判例を見ても、虚偽の事実を告げて取引先を奪取したり、技術情報や顧客名簿を殊更利用したといえる場合、自然な転職ではない従業員の多数引抜きがある場合などには、違法性を認める方向に傾きますが、退職から半年以上経ってからの競業であったり、退職の発端が社内紛争などやむを得ない事情がある場合、従前の取引先であったとしてもコンペで受注をする様になったなど自由競争の範囲といえる様な場合には違法性を否定する方向に傾くようです。


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