ことのはぐさ

2022.09.26 弁護士 小林保夫|「アベノミクス」をどう見るか-安倍元首相の国葬をめぐって-


1 国葬の根拠の欠落と反対世論の高まり-安倍元首相と元統一教会のつながりの露呈-
 岸田首相は、国会での審議を経ることもなく早々に、去る7月22日、安倍元首相の国葬を9月27日に行う旨決定し、公表しました。
 安倍元首相について国葬を行う理由として、岸田首相は、「憲政史上最長の8年8ヶ月にわたり重責を務めた」、「内政や外交で大きな実績を残した」、「国内外から哀悼の意が寄せられている」などの理由を挙げました。
 しかし、この決定については、過半数を超える多くの国民が、国葬の憲法上の根拠が存在しないこと、国会の審議を経ない財政上の支出を行うことの問題性、安倍元首相の評価等をめぐって反対の声を挙げ、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞等大手メディの各全国世論調査は、反対が上回るか、少なくとも国民の半分が明確に反対していることを示しました。諸団体や多くの識者もそれぞれに反対の論拠を指摘し、全国各地で反対の集会やデモなどを繰り広げています。
 岸田首相が試みた国会での説明も、「丁寧な説明」とは裏腹に、かえって国葬に付する根拠の欠落をさらに明らかにする結果となっており、反対の世論もさらに高まっています。
 折から安倍元首相の殺害を契機に、同元首相やその祖父である岸元首相が、元統一教会や同教会がわが国の右翼の頭目であった笹川了平等とともに立ち上げた「勝共連合」に深く関わり、同教会等の広告塔の役割を果たし、また自民党・公明党を含む日本の複数の政党や各政党の要職を含む多くの政治家が多かれ少なかれその影響下に置かれていた事実が次々発掘され、公表されたことも多くの国民の批判や怒りを買うことになりました。元統一教会が、日本の信者から献金名目で集めた金額が、判明しただけでも1300億円近い金額に上り(全国霊感商法対策弁護士連絡会)、それが同教会の教祖らの贅を尽くした豪邸や生活費、あるいはアメリカ、ロシアを含む諸国の政治工作にあてられていたことも明らかになりました。
 安倍元首相の殺害を企てた被疑者の家庭も1億円に上る献金を強いられ、信者である母親の破産や家庭の崩壊を来したという悲惨な事実も判明しています。
2 そもそも、安倍元首相は「国葬」に値するか-「アベノミクス」の評価-
 私は、いわゆる「国葬」が、憲法上の根拠を持つかは措くとして、そもそも 安倍元首相が岸田首相や自民党・公明党などの言う「大きな実績を残した」といえるかについて、おそらく岸田首相等の論者の念頭においていると思われる「アベノミクス」について、多くの識者の評価を借りて論じたいと思います。
(1)「アベノミクス」は、金融政策、財政出動、構造改革を「三本の矢」によって日本経済を停滞から立ち直らせる政策として打ち出されたとされていますが、結局、「異次元の金融緩和」によって、株式市場に多額の資金を投じて、株式に対する異常な低廉税制とあいまって高額所得者を潤おしたに止まり、労働者、一般国民にはわずかな「おこぼれ」もまわらず、また企業についても500兆円(516兆円2021年度)を超える異常な内部留保をもたらしましたが、これは、企業における企業活動の活性化の努力や労働者の賃金の改善を図らなかった結果であり、安倍政権を継いでその政策を踏襲した管、岸田各政権においても引き続く経済の低迷から回復することはありませんでした。
 その結果、OECD(経済開発協力機構 現在38カ国)のうち24位に低落し、かつては日本よりはるかに低位にあった韓国にも劣る地位にあります。
 かえって、経済をめぐるあらゆる国際比較においても、この間著しい低下を示しています。
このような日本経済の現状について、野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、「日本の賃金はOECDの中で最下位グループにある。アメリカの約半分であり、韓国より低い。・・・ところがアベノミクス以前、日本の賃金は世界第5位だった。その後日本の技術革新が進まず、実質賃金が上がらなかった。そして円安になったために、現在のような事態になったのだ。円安で賃金の購買力を低下させ、それによって株価を引き上げたことがアベノミクスの本質だ。」と喝破しています(「東洋経済」2021年10月)。
 ロイター編集の「情報BOX:アベノミクスの功罪は、識者はこう見る」によれば、以下のような識者の認識が紹介されています。
 早川英男(東京財団政策研究所上席研究員 元日銀理事)
「アベノミクスは、要するに円安政策だったというに尽きる。金融緩和で円が安くなり、それに伴って株価が上がったということはあるが、それ以外に取り立てて起こったことは何もなかった。」
 木内登英(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト 元日銀審議委員)
「アベノミクスの成果であると考えられていたもののかなりの部分は、世界経済の回復の追い風によるものだ。安倍政権下で株高・円安が急ピッチで進んだが世界経済の順風がなければ、短期間でしぼんでいた。
財政では、プライマリーバランス(PB)が改善しているように見えたことで、思い切った財政健全化策がとられなかった。金融政策でも、デフレ脱却をかかげてしまったがゆえに、デフレではなくなってきているという表現にはなったが、デフレを克服したという宣言には至らず、異例な金融政策を続けてしまった。」
 浜 矩子(同志社大学大学院教授)
「・・・安倍政権は分配政策にまともに取り組んでこなかった。日本経済の最大の問題は豊かさの中の貧困。日本は富の蓄積の大きい国だが、相対貧困率が15%前後も存在し、弱者切り捨ての構図を残した。分配政策に対応してこなかったため、コロナ禍で弱者がより痛む構図をもたらした。大いなる負の遺産だ。」
 齋藤太郎(ニッセイ基礎研究所経済調査部長)
「もともとアベノミクスは何も達成していない。」
等々です。
(2)さらに、内外の多くの識者は、「アベノミクス」が失敗し、日本経済が世界の経済に立ち後れ低迷しているだけではなく、きわめて深刻な状態に陥っていること指摘しています。
 黒田日銀総裁は、安部元首相に任命され、同首相と二人三脚で「アベノミクス」を進めてきましたが、今、ますます円安が進むなかで、なお莫大な日銀券の発行を継続する金融緩和政策を転換しようとしません。
 円相場が9月7日1ドル=144円まで値下がりし、メディアが「”悪い円安”実質実効為替レート51年前の水準 政府や日銀の対応は?」と迫っているにもかかわらず、日銀は何らの対応をしません。
 しかし、実際は、日銀は進退窮まり対応できないのが内実であるとみられています。
 このような深刻な事態が進行するなかで、日銀や国はどのような対策を取る、あるいは取らざるを得ないでしょうか。
 現在の日本の借金は、約1200兆円で、これに膨大な金利負担があります。 しかも、岸田政権は、引き続き借入、国債発行を続けているので、債務はますます増大し、その返済は 、尋常な増税などでは対応できません。また、もし何らかの対策を講じなければ、「市場が反乱を起こす」と言われています。
 日本がこのような深刻な危機にあることは内外のエコノミストが一致して認めています。
 このような事態に対する国の対策について、藤巻健史氏は、その著書「日本・破綻寸前 自分のお金は、こうして守れ!」(幻冬舎発行)のなかで、インフレ税、それもハイパーインフレ税によって国の債務を棒引きにし、清算するしかないと解説します。ハイパーインフレとは、日本が戦争直後に経験した円価切り下げ、新券発行に先立つ事態です。そして、藤巻氏のような認識や対策の必要に至らないまでも、現状を藤巻氏と同じように認識し、対応がきわめて困難な深刻な事態に立ち至っているとする理解には、元日銀理事等を含め多くの賛同者がいます。
3 終わりに
 安部元首相は、「アベノミクス」によって、日本及び日本国民に大きな災厄を及ぼし、言葉を換えれば多大の負の遺産を残したのです。
 私に限らず、多くの国民はこの観点だけからでも同氏の国葬に反対せざるを得ないでしょう。


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