ことのはぐさ

2024.03.15 弁護士 増田尚|分譲貸し マンションの建替決議で賃借権が終了させられる!?


 2月15日の法制審議会で、区分所有法制の見直しに関する諮問につき審議され、要綱案が採択されて、法務大臣に答申することとされました。
 採択された要綱は、マンションなどの区分所有建物の建替え決議の要件を緩和するなど、区分所有建物の再生の円滑を図ることをうたい文句にして、再開発を容易にする方向で、区分所有法を改定するものであり、問題があるのですが(詳しくは、自由法曹団市民問題委員会の意見書をご参照ください。)、中でも、建替決議があった場合に、専有部分の賃貸借を終了させることができる制度を創設しようとしている点は、賃借人の居住の安定に反するものとして、きわめて重大な問題があるといえます。
 要綱は、建替え決議があったときは、賃貸人である専有部分の区分所有者はもちろん、建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む。)若しくはこれらの者の全員の合意により賃貸借の終了を請求することできる者として指定された者も含めて、専有部分の賃借人に対して、賃貸借の終了を請求することができる権利を付与し、請求がなされたときは、当該専有部分の賃貸借は、その請求があった日から6か月を経過することによって終了することとしています。その際、賃貸人は、いわゆる用対連基準に従って算出される通損補償と同水準の額の金銭を「賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金」として支払わなければならないとしています。賃貸人以外の者で賃貸借終了請求をした者は、賃貸人と連帯して、補償金を弁済する責任を負うとされます。
 もともと、借地借家法によれば、賃貸人から更新拒絶又は解約申入れにより建物賃貸借契約を終了させるには、「正当の事由」が必要であるとされています。「正当の事由」とは、賃貸人と賃借人の双方の建物使用の必要性を主たる要素として、それ以外に、従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況、立退料等の財産上の給付をする旨の申出を補充的要素として、判断をするとされています。したがって、区分所有建物につき建替決議がなされたとしても、それだけで正当事由を認めるのではなく、専有部分の賃借人の使用の必要性と比較衡量しつつ、正当事由の不備がある場合に、これを補完するものとして、相応の立退料の提供などの財産上の給付がなされていることを考慮しています。
 これに対し、要綱は、建替決議があったときは、賃借人の使用の必要性などのいっさいの事情を考慮せずに、それだけで賃貸借の終了をさせることができるのですから、正当事由制度の大きな例外を設けるに等しいものといわなければなりません。もちろん、賃貸借終了請求がなされた場合、賃貸人等には、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金の支払義務が生じ、補償金の支払があるまでは、賃借物件の明渡を拒むことができる旨も定められていますが、賃借人にとっては、賃貸借の終了を争うことはもはやできなくなるのであり、建物を使用し続ける権利を保障した正当事由制度の趣旨を損なうものといわざるを得ません。用対連基準にいう通損補償と同水準の補償金を支払えば、一方的に、建物を使用し続ける権利を奪ってよいということにはなりません。
 要綱に基づく区分所有法の改定案が通常国会にも提出される見込みです。そもそも、賃借権消滅請求はディベロッパー側からの要求に基づき導入が検討されたもので、賃借人が求めたものではありません。賃借人の住まいの権利をいっそう不安定化し、正当事由制度を骨抜きにする賃借権終了請求権の創設に断固として反対し、住まいの権利を守る運動を繰り広げましょう。


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