ことのはぐさ

2017.01.31 弁護士 宮本亜紀|不倫相手の破産と賠償責任~不倫相手に慰謝料を請求しても、相手が破産したら払ってもらえない?~


 配偶者(夫・妻)が不倫していることを知った時、あなたならどうしますか?

 離婚を考えますか?不貞行為(婚姻外の性交渉)は、離婚事由になりえます(民法770条1項1号)。

 それから、不倫相手を責めたいですか?その相手方に慰謝料請求する余地があるというのは、ある程度ご存知だと思います。法律的には、既婚者であると知った上で、相手方が配偶者と肉体関係を持つことで、婚姻共同生活の平穏を侵害して夫婦関係を破綻の危機に陥れたことを、不法行為として、慰謝料(精神的苦痛への金銭賠償)を請求するものです。

 

 しかし、不倫相手が破産してしまい、慰謝料支払いの責任を免れられてしまったというケースがあります。

 この事件は、平成21年8月に結婚し、子どもが3人いる夫婦でした。平成25年4月頃から夫が共通の趣味を持つ女性と知り合い、SNSでの交流から携帯電話連絡先の交換、そして12月中旬の箱根旅行で肉体関係に発展し、その後、夫と浮気相手の女性は、月に2,3度仕事帰りに会って不倫を続ける関係となっていました。妻は3人目の子を妊娠している時でした。不倫関係は平成26年6月頃には終わっていたようです。妻は、夫の不倫に気付き、同年8月頃弁護士に依頼して、不倫相手の女性に謝罪と慰謝料支払いを請求しました。不倫相手の女性も弁護士を依頼して交渉した結果、和解金210万円(35万円一括支払い、残金は月額7万円を25回払い)で示談が成立しました。

 しかし、不倫相手女性は、他に200万円程度の借金があり、慰謝料は7万円を一度払っただけで、平成27年9月に自己破産の申立をしてしまったのです。

 

 裁判所への自己破産手続では、浪費や一部の債権者への有利な支払など法律で定められた免責不許可事由(借金・債務の支払を免れない事情)があるか、仮にこれらの事情があるとしても裁量によって支払の責任を免れさせることが妥当かを判断することになります。裁判所が免責許可決定を出すと、法律で定められた非免責債権(破産しても免責されない債権)でない限り、債務者は支払の責任を免れることになります。

 

 しかし、破産法は、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」を非免責債権だと定めています(253条1項2号)。

妻の破産者(浮気相手の女性)に対する慰謝料請求権は「不法行為に基づく損害賠償請求権」の一種です。そこで、破産者(浮気相手の女性)の行為が「悪意で加えた不法行為」となるか、「悪意」の意味が、争点になりました。

 破産法253条1項2号の「悪意」の意味について、「故意」と同じという法学者の意見もありますが、多くは「故意を超えた積極的な害意」をいうとしています。このケースでも、裁判所は後者の考えに立ち、次の様な具体的事情から、「積極的な害意」はないと判断しました。

 裁判所は、妻が3人目の子を妊娠していた時期に継続して不貞関係を持っていたこと、夫との関係で浮気相手女性は決して受け身ではなかったという事実にも触れながら、「不貞行為の態様、不貞関係発覚直後の原告に対する対応など、本件に顕れた一切の事情に鑑みると、被告(=浮気相手の女性)の不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえない。」と認めつつ、それでも、「被告が一方的にA(=夫)を籠絡して原告(=妻)の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできない」として、積極的な害意はなかったと判断したのです。

 

 このケースでは、妻としては、浮気相手の女性にこれ以上お金の支払いを求められないということになりました。悔しかったでしょう。それでも、裁判所の判断の背景には、浮気相手の女性と夫との不貞関係は、妻に対する関係において共同不法行為である、つまり、夫も浮気相手と共同の責任を負うのであって、浮気相手のみを一方的に罰すればよいというわけではないという価値判断もあったと思われます。

 

 この裁判例は、あくまで、ケースの具体的事情に沿った判断ですので、「不貞に基づく損害賠償債務を負っていても浮気相手は破産してしまえば常に責任を免れる」、という訳ではありません。当該不貞行為が「故意を超えた積極的な害意」があったと評価出来るかどうかがポイントです。事情が違えば、また違った判決があり得ますので同様のケースでお悩みの方は、弁護士へご相談下さい。

(参考ケース:平成28年3月11日東京地方裁判所判決)


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