ことのはぐさ

2014.11.06 弁護士 古本剛之 | 便利さとゆとりの反比例


 「ゾウの時間 ネズミの時間」「生物学的文明論」(いずれも本川達雄著)を読んで徒然に考えたことがらです。
 「ゾウの時間 ネズミの時間」の中では、「生物によって時間は相対的だ」という観念が新鮮で、印象的でした。
 ネズミよりゾウの方がずっと長生きです。逆に、ネズミは素早く動き、ゾウはゆったり動きます。素早く動くためには、たくさん心臓を動かす必要があります。ネズミもゾウも、一生涯のうちにおける総心拍数には、それほど大きな違いはないそうです。ネズミは大急ぎで活動し、早く死んでしまう。生き急いでいるということです(人間の尺度による勝手な評価なので、ネズミにとっては、自分たちの生き方こそが普通なのでしょうが)。
 また、同著者の「生物学的文明論」においては、「人類は、環境を代価にして時間を買っている」という考え方が示されています。便利な文明は、時間の短縮をもたらしてくれます。例えば、電車や飛行機ができたことによって、それがなかった時より移動が速くなって目的地まで早く着けるので、多くのあまった時間が手に入るのです。その反面で、駅や空港の開設で自然を破壊し、CO2排出など、多くの環境破壊を生みます。
 また、電化製品も同様です。炊飯器や洗濯機ができたことによって、家事の時間が短縮され、余った時間が生まれます。しかし、電化製品の製造過程、電気の製造過程、流通過程など様々な場面において環境破壊は免れません。
 テレビやパソコン、スマートフォンなどは、情報をより速く得ることができ、やはり時間短縮を生み出します。そして電化製品同様に環境破壊を生みます。
 人々は、文明発展によって時間を得る変わりに環境を犠牲にしてきたのです。言い換えれば、環境を代価として払って、時間を買っているということになるのです。

 しばらく前に大分へ出張で行く機会がありました。1泊しなければならないと思いましたが、日帰りができてしまいました。朝早く出て夜遅く帰る強行軍ではありますが、現地での滞在時間も数時間あり、十分仕事をこなせるものでした。仕事という点では、時間も費用もコストが少なくて済み、すばらしい結果です。
 そのかわり、行き帰りの時間のゆとりはなく、駅の小さな売店でお土産物をちょっと見た以外、何も大分らしいものも見ることもなく、どこへ行ってきたかの実感に乏しいものでした。
 もし、現地で泊まりになったら、どこかにあまった時間でちょっと大分の風景を眺めてみたり、何かその土地ならではの風習に触れる機会もあったかもしれません。
 交通機関や情報網が発達し、人間活動の様々な場面で時間が早くなって便利になりましたが、反面ゆとりがなくなってしまったことは寂しくもあります。

 移動も情報もますます速くなり、人間社会は貪欲に時間を買い求めています。その勢いはとどまるところを知らないように思えます。ネズミが生き急いで速く死ぬように、人類そのものが生き急いで早い滅亡へと向かって行くのでなければいいな、と妙な心配をしてしまいます。


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