きづがわ瓦版

ことのはぐさ

2012.06.12 弁護士 宮本亜紀| 「若い人の夢と志を奪うな!」~司法修習生の給費制の問題を知って下さい


 今年1月から当事務所に入所しました、新人弁護士の宮本亜紀です。久しぶりの事務所所属の新人です、どうぞ末永くよろしくお願いいたします。
 さて、皆さまは、大阪弁護士会館のスローガン垂れ幕に、「若い人の夢と志を奪うな!」と掲げられていることはご存知でいらっしゃいますか?大きな文字の上に、小さな文字で「司法修習生の給費制の維持を!!」とも書いてありますが、何のことだかわからないという方が多いでしょうか。その懸垂幕は、2年近く前から掲げられており、私は弁護士会館に行くたびに、声に出してつぶやいています。私は、この2年近くずっと、「司法修習生の給費制維持」の活動をやって いるからです。
 「司法修習生」とは、司法試験に合格した後、1年間、裁判官・検察官・弁護士の実務研修をする、最高裁判所に採用され監督される身分の者です。司法試験に合格したらすぐに弁護士等になれるのではなく、1年間実務研修を受けてプロフェッションとして養成され、最後に再び国家試験を受けて合格すれば、裁判官に採用される者、検察官に採用される者、弁護士として登録する者に分かれて、法律家として活動を始めるのです。たった1年間の身分なのであまり世間に知られていませんが、全国各地の地方裁判所に配属され、「修習生バッジ」を付けて研修に励みます。2か月ごとに、民事裁判修習・刑事裁判修習・検察修習・弁護 修習・選択修習があり、裁判所・検察庁・法律事務所に毎日通い、実際の事件を目の前にして、裁判官・検察官・弁護士の指導を受けながら、自分が事件を担当すればどう取り組むのか、事件解決の技術と倫理・マインドを学びます。そして、総仕上げに2か月間、埼玉県和光市にある司法研修所に行き、講義と起案(書面作成)を叩き込まれて、最後の試験を受けます。
 私は、昨年1年間を司法修習生として、岐阜地方裁判所に配属されて、5月の今頃は刑事裁判修習をしていました。裁判官の普段の執務の様子を見るなんてもちろん初めてですし、裁判官と同じ記録を読んで法廷に臨み、後で法廷では無表情だった裁判官が何を考えているのか聞き出したり、裁判手続進行を支える裁判所書記官・事務官の動きを見たり、家に帰れば難解なテキストで実務の理論を予習・復習し修習生同士で勉強会もして、とにかく指導担当の裁判官の背後に張り 付き、その一挙手一投足を見て何でも吸収しようと努力していました。その前の検察修習では、被疑者(逮捕された人)や参考人(目撃者など)の取調べをして裁判所に提出する調書を作成するなど、他人の人生に関わる責任の重いこともしていました。そのような2か月間は短く、慣れた頃に次の修習へ移るので、とてもめまぐるしかったです。総仕上げに司法研修所に行った時は、最後の国家試験のために再び机上で勉強です。最後の試験は合格率が高いですが、司法試験に合 格した一定の能力ある人達全員が必死で勉強するので気を抜けません。1科目7時間半の試験を5科目、5日間の試験です。私は、昼食は試験中におにぎりを片手で食べていました。司法修習修了と試験合格の通知が来たときは、とても達成感がありました。
 そんな「司法修習生」ですが、これまでは、公務員に準じた給料たる「給費」が支給されていました(「給費制」)。それが、裁判所法の改正により、 2011年採用の司法修習生(新65期生)からは、給費の支給なし、代わりに国が生活費を貸し付けるという「貸与制」が施行されています。修習生には、「修習専念義務」という、アルバイト等の副職を禁じる法律の規定があって、他に収入はありません。つまり、収入の手段を絶たれているので、貯蓄や援助してくれる人がない限り、国から借金をしながら修習をするしかありません。全国どこの地方裁判所に配属されるか希望が通らないことも多いのですが、寮はなくて自分で住居を探し引っ越し、家賃を負担します。毎日通う交通費も自己負担です。社会保障は国民健康保険や国民年金なので、保険料などを貸与金(=借金)から支払うことになります。 その他、勉強に必要なパソコンや書籍類、スーツ等被服代など、かなりお金が掛かるのです。そこで、貸与制でも月20万円前後、 合計300万円ほど貸し付けがなされます。
 そして、現在の制度では司法試験受験までに、大学4年間の学費、法科大学院原則3年の学費で、奨学金債務平均350万円、中には1200万円の返済債務を負っている人もいます。学生時代の奨学金問題は、法律家をめざす若者に限ったことでなく、日本の高学費や貸与型奨学金こそおかしい!と私は思います。し かし、給費制問題は、学生時代の奨学金にさらに修習時代の貸与金が加わることで、法曹人生スタート時点で、平均650万円の借金を背負っており、とどめをさされるということです。裁判官・検察官の給料は減らされており、弁護士業界の就職難・特に若い弁護士の低所得も問題になっており、返済も容易ではありません。
 そうなので、貸与制となれば、修習生は、なるべく貸与金を使わないで借金の額を減らそうとばかり考え、必要な修習の経費にもお金を使わず、結果的に充実した修習で技術とマインドが養成されないのではないか、借金返済に追われれば、見返りの少ない事件に取り組めなくなるのではないか、それでは、有能な法律家になって社会的弱者を助けたいという志が貫けない!という法科大学院生・修了生の不安の声が上がりました。経済的に余裕がない家庭の大学生や、社会人を辞めて法曹をめざそうとする人が、それだけお金がかかるならそもそも法律家をめざすことを諦めるしかない!という落胆の声が上がりました。
 そこで、給費制廃止前の2010年6月に、大学生、法科大学院生・修了生、司法修習生、若手法律家らが集まり、給費制維持を訴える当事者の団体である 「ビギナーズ・ネット」が起ち上がりました。私は、当時、司法試験合格前の法科大学院修了生で、ビギナーズ・ネットに参加し、地元の京都で活動を始めまし た。
 日本弁護士連合会と全国の弁護士会も、法曹養成は未来の司法界の問題である、「若い人の夢と志を奪うな!」と司法修習生の給費制維持活動を始めていました。また、法律家に権利救済を求める市民の立場、法律家をめざす子どもを援助する市民の立場として、給費制維持の活動をする市民団体が起ち上がりました。 当事者の若者、弁護士会、市民団体の協同により、署名活動、市民集会やパレード、議員要請など必死に活動し、社会に訴えました。
 そして、2010年11月、法曹養成全体も含めて検討期間が必要だとして、給費制を1年間延長する裁判所法改正が成立しました。私は、仲間と共に真夏に 街頭署名に立ち、短期間に68万筆近くの署名を国会に提出できたこと、若い法律家に期待していると励ましの言葉をたくさんもらった経験は、忘れられません。
 給費制1年延長のおかげで私は、新64期司法修習生として給費制で充実した修習を受けられました。窮することなく勉強に必要な書籍購入し、学習会等に参加もできましたし、3.11では、法曹として被災者援助の仕事がしたいと思い、現場を見て心に焼き付けておく必要があると思って、修習生の仲間と一緒に石巻市や女川町を訪問し、現場で奔走する仙台の弁護士の話を聞きに行きました。そして今、福島原発から関西に避難された方の支援をする弁護団に参加するな ど、志を貫けています。
 しかし、1年延長中に給費制の歴史や意義などの検討が充分なされないまま、延長期限が切れて、1年後輩の新65期司法修習生は、給費なし・貸与制の下での修習が始まりました。すでに修習は半分近く終え、貸与金の借金は100万円を超えて、悲鳴が上がっています。法曹を最初に志した気持ちが萎えてしまっている声を聞きます。ビギナーズ・ネット・弁護士会・市民団体は、諦めずに給費制復活を求めて活動を継続し、今国会で、貸与制見直しも含めて改めて検討機関を設置するという法案が通る見通しですが、早期の給費制復活がなされないことは大変残念です。
 国の三権分立の一つである司法権、裁判制度は、裁判官・検察官・弁護士の法曹三者が人権救済・社会正義実現という公益を担っています。公益のために働く人材を国全体で育てる給費制は、やっぱり必要ではないでしょうか。司法予算が全体の0.4%という低さもこの背景にある大きな問題です。
 ことのはぐさを読んでいただいている市民の皆さん、どんな法律家にいてほしいですか?市民に必要とされる法律家として働きたいというのが、「若い人の夢 と志」なのですが、もっと市民の皆さんの声を聞いて、ビギナーズ・ネットとして裁判所法改正を訴えると共に、私自身、志を持った若い法律家として、毎日の弁護士活動の糧にしたいと思います。
★ビギナーズ・ネットのHPもご覧下さい。
http://www.beginners-net.com/aboutus.html

 

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