ことのはぐさ

2025.08.18 弁護士 横山精一|ホットドッグ誤嚥事故に関する令和6年9月26日東京高裁判決について


(ホットドッグの誤嚥事故について)
 消費者庁の平成29年3月15日付け「食品による子供の窒息事故にご注意ください!-6歳以下の子供の窒息事故が多数発生しています-」と題する報道発表によると、平成22年から26年までの5年間の、14歳以下の子どもの窒息死事故623件の内、食品による窒息死事故が103件あり、その内、パン類(ホットドッグ、菓子パンなど)によるものが4件あったといいます。
 平成28年3月31日、内閣府子ども・子育て本部参事官等は、「教育・保育施設等における事故防止及び発生時のためのガイドライン」を公表し、各都道府県の担当局等に通知しました。その施設・事業者向けのガイドラインには浦安市作成の誤嚥・窒息事故防止マニュアルが紹介されています。このマニュアルには、「特に配慮が必要な食材」として、パン類があげられていました。また、「調理や切り方を工夫する食材」としてソーセージがあげられています。
 ホットドッグは、パンにソーセージをはさむ食べ物であり、幼児がこれを食べる際には相当な注意が必要となります。本判決は、このホットドッグの誤嚥に関するものです。

(事案の概要)
 本件では、市立保育所の入所児童(当時3歳2か月)が、平成29年2月8日、保育所で提供されたホットドッグを誤嚥し、一時、心肺停止となり、回復後も寝たきりになるなどの後遺症が残りました。そこで、その児童、父母等が保育所を設置運営する市に対し国家賠償訴訟を提起しました。
 1審の東京地裁判決は、児童らの請求を棄却しましたが、令和6年9月26日の東京高裁判決は、児童らの請求を認める、逆転判決でした。

(東京高裁判決の判断)
 1 ホットドッグの誤嚥の危険性
本件で児童に提供されたホットドッグについて、
①パンは、その表面に唾液がついたり、牛乳などを飲ませたりすると、表面だけが粘性が高くなり、付着性が高くなって、口の中に残りやすい。
②ウインナーも、表面がなめらかで丸みを帯びている上、弾性も強いため、表面に皮がついていると相応の咀嚼力が必要である。
③いずれも、誤嚥による窒息の危険が高かった
との認定をしました。
パンは、唾液やミルクで表面だけ粘っこくなり、口の中に残りやすい。
ウインナーは、皮が着いていると、かみ切りにくく、喉に詰まりやすい。
ホットドッグは、この組み合わせなので、誤嚥を引き起こしやすいという判断です。
 2 児童の状況
児童には知的障害があり、食べ物をよくかまないで、細かくなる前に、飲もうとしたり、喉に詰まらせることがあったと認定し、本件では、児童がホットドッグをよくかまないまま飲み込もうとし誤嚥した、と認定しました。
このように、本判決は、一般的なホットドッグの誤嚥の危険性に加えて、これを、知的障害のある児童に提供したことの危険性を重視しています。
 3 保育所の所長等の管理職の責任
本判決では、児童と直接関わった調理担当者や保育士の職務上の責任を問うのではなく、そもそも、ホットドッグを児童に与える危険性や、そのような危険なものを適切に提供する際のあるべき方法について、教育、指導、周知することが不足していたことを指摘し、管理職員の職務上の責任を認めています。
冒頭で述べたとおり、内閣府子ども・子育て本部参事官等のガイドライン、浦安市のマニュアルによれば、ホットドッグの誤嚥の危険が指摘され、これが、公表されていることから、誤嚥の危険性に関する、管理職の教育、指導、周知義務を指摘しています。
このような事故が発生した場合、ともすると、事故に直接関与していた担当者の責任が問題になります。しかし、それに加え、安全性を確保するために、どのようなことが問題となり、どのような危険防止措置が必要であったのか、それらについて、行政等のガイドライン、マニュアル等が存在するのか、施設の管理職は、危機管理の体制を整えているのか等を検討することが重要です。この判決は、そのことを指摘しています。
(地裁判決と高裁判決の分かれ目)
  本件については、地裁判決では請求が棄却され、高裁判決では請求が認められました。
  その分かれ目は、以下の点にあります。
 1 ホットドッグの危険性について
原判決では、ホットドッグは一般的な幼児向け料理として広く紹介されているとして、その危険性を否定しています。高裁判決では、前述のガイドライン、マニュアル等で誤嚥の危険性を指摘しています。
 2 児童の発達の遅れに対する視点
地裁判決は、主として、児童の身体面を検討し、嚥下機能が特に未熟であったり、頻繁に丸呑みをしたりするなどの誤嚥の危険が高い状況であったとは言えないとしました。
これに対して、高裁判決は、児童の知的発達面を重視して、児童には知的障害があり、食べ物をよくかまず、喉に詰まらせることがあることを指摘しています。
 3 管理職員の責任について
控訴審判決は、国等のガイドライン等が公表されているのに対し、当該保育所の危機管理マニュアルには、ホットドッグの危険性には触れず、ホットドッグの提供方法について、担当調理師や保育士に対する周知がされていないことを指摘し、所長等の管理職員に責任があると判断しています。

(雑感)
保育所や高齢者の施設で事故が発生した際、一般的には、子どもや高齢者を直接担当する職員に過失があるかどうかを検討することになります。もちろん、このような事実関係を確認することは大切です。同時に、当該事故について、行政や専門家がどのような検討をし、ガイドライン、マニュアル等で、その検討内容を公表しているか、それを受けて、各施設として、危機管理マニュアル等を設けているか、そのマニュアルは、危険防止に役立つ内容になっているか等を検討することも、大切になります。
本件訴訟では、①ホットドッグ自体の誤嚥の危険性、②ホットドッグを与えられた児童の状況による誤嚥の危険性、③これらの危険性について、当該組織としてどのようなガイドラインを作成し、職員を教育、指導、周知しているか、を検討しています。
事故が発生した場合、このような、広い視点で検討し、主張することの重要性を感じます。そして、本件の児童側の弁護士は、このような情報を裁判所に提供しているようです。これが、高裁判決に結実したものと思われます。
尚、本件判決については、上告受理申立がなされています。


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