きづがわ瓦版

ことのはぐさ

2011.04.15 弁護士 増田尚 | 敷引ぼったくりを追認した不当な最高裁判決


  最高裁第一小法廷(金築誠志裁判長)は、3月24日、敷金から一定額をあらかじめ差し引く敷引特約について、高額に過ぎる場合は、消費者契約法10条により無効となるとの判決http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110325093237.pdfを言い渡しました。

  まず、本判決は、「敷引特約は、契約当事者間にその趣旨について別異に解すべき合意等のない限り、通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含む」といいますが、このような理解は、最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319130706750698.pdfの判旨に照らし、不当です。
  すなわち、平成17年判決は、通常損耗等の補修費用は賃料に含まれているのが通常で、その修繕費用を賃借人に負担させることは、「賃借人に予期しない特別 の負担を課すことになる」としています。そのために、そのような原状回復特約の成立については、「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が 賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されている」こと、もしくは、「賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨 を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められる」など、記載及び説明の明確性を要求しているのです。

  ところが、本判決は、「賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、 賃借人は、賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている」といいます。賃借人が全部負担することとなる敷引特約は、それだけで明記されているというのです。
 
  しかも、本判決は、通常損耗等の補修費用「に充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には、その反面において、上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されている」と述べています。不当にも、平成17年判決の原則と例外を逆転させる判断をしているのです。しかし、敷引特 約がある場合に、通常損耗との補修費用は敷引金のみでまかない、家賃からは支出しないなどと考えるのは、あまりも「賃貸という借契約の本質」(平成17年 判決)に反するというべきです。 
  本判決は、敷引金が通常損耗等の補修費用であるのに定額となっている点についても、「通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえ」ないといいます。しかし、賃貸人はカネを受け取っておいて明細も示さないずに、賃借人が黙っていればおしまいということを「紛争防止」というのでしょうか。理解に苦しみます。何より、敷引がなされているからといって、原状回復トラブルはなくなっていません。
  
  さらに、本判決は、18万円ないし34万円の敷引金は、高額にすぎるとはいえないといいます。非常識な経済感覚というべきです。敷引金の場合、結局、その 額を契約時に一時に入金しなければなりませんが、その資金を準備するのに、どれだけ多くの消費者が苦しめられているのか、理解が及ばないのでしょうか。

  敷引特約については、大半の下級審判決が、消費者契約法10条により無効としていましたが、各判決が詳細に検討してきたことと比較しても、お粗末というべきで、裁判例の趨勢を覆すだけの合理的な理由が示されているとはいえません。原状回復ガイドラインなど立法・行政・司法がこれまでに積み重ねてきた賃借人の権利を擁護するための努力をぶち壊す不当判決です。


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