ことのはぐさ

2010.09.27 弁護士 渡辺和恵 | 私の願い-教育の無償制について


 昨年の事務所ニュースの近況報告欄に、私は経済的理由で大学はおろか高校進学も断念せざるを得ない子どもたちが増えていることが自分の生い立ちからも重い課題で、なんとかこのような事態を無くしていきたいとの願いを持っていると書いた。
  私は今年、弁護士生活35周年を迎えた。母子家庭でありながら大学生活を保障してくれた母があったからこそ今日の私がある。母には感謝しすぎることはないと思っている。

  ところで、学生時代は学費その他の教育費の負担を母にかけながらも教育費の無償制について考えもしなかった。1960年代の大学では何も教えなかった。
  しかし、今は違う。国際社会の常識は教育の無償制に大きく動いている。例えば日本も批准している国連子どもの権利条約は無償制を謳っている。しかし、日本政府は無償は例示に過ぎないとして国の義務を認めない解釈をとっている。又、国連人権規約にも無償制が規定されているが、日本政府は批准に当たってこの部分だけを留保するとしている。日本政府は日本の現状はこのままでよいとしているのである。

  日本の現状とは以下の通りである。
  小・中学校は授業料は徴収しないが、学校納付金等を保護者は負担し、給食費の支払えない子ども、修学旅行に行けない子どもが問題になっている。昨年までは 高校は入学金・授業料を徴収する上、大阪府に至っては冷房費まで徴収していた。通学定期代も高い。大学に至っては公立でも授業料は高いし、給費性の奨学金は殆どない。高校・大学の私立学校においての保護者の負担の重さは説明を要しない。
  これでよいと言っている日本政府は世界の常識に反している。OECD(経済協力開発機構)が9月7日加盟国の教育施策に関する調査結果(2007年)を発表している(以下毎日新聞報道による)。
  まず日本の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出割合は3.3%で比較できる加盟国28カ国中、最下位位だったという。OECD平均は 4.8%、公的支出割合が最も大きいアイスランドは7%、デンマーク6.6%、スウェーデン6.1%、と続き北欧諸国の教育的投資が際立ったという。
  一方、日本の教育費支出に占める家計負担は33.3%でOECD平均17.4%の2倍近い。大学に至っては67.5%で家計負担が日本では際立っている。実感していたことが国際社会との比較で数字で表されたのだ。

  ところで、家庭裁判所ではいわゆる早見表の使用で家計費(婚費分担)、養育費の算定に当たって子どもの教育費を家計がこれほどに負担している事実を無視している。裁判の現場で私はこれを認めさせるために力を入れているが力及ばずである。司法関係者もこのOECD調査をよく学習すべきである。
  マスコミはこの調査を報道しているが、いずれにしても庶民が教育費の無償の願いを持っており、これを政府や自治体に義務とさせるためにも、子どもの置かれている実態をもっと報道すべきである。

  このような教育費負担問題は昨年の衆議院選挙の争点になり、新政権発足のもと、なんとか公立高校の授業料の無償および私学授業料への一定の助成が実現した。今、国連の子どもの権利条約の後押しを受けて、子どもたち自身が声を上げるようになった。私の子ども時代とはちがう。私も微力ながら自分の持ち分野で力を尽くしたいと思う。


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