きづがわ瓦版

ことのはぐさ

2009.11.27 弁護士 渡辺和恵 | 「猿橋勝子さん」に続こう


 毎日新聞の窓(短文)の欄に、懐かしい猿橋勝子さん(地球科学者)の名を見つけた。 「懐かしい」と言っても一度もお会いしたことがない。しかし、1975年弁護士になってまだ日の浅かった若き日の私にとっては忘れられない名前である。猿橋さんのお名前を知ったのは、1981年「猿橋賞」を創設されたという新聞記事によってである。自然科学の分野はそれまでいわゆる男社会であった。そんな中で、自然科学の分野で優れた研究業績を挙げた50才未満の女性科学者を顕彰する賞だという。法曹界もいわゆる男社会であった。女性であるが故に伸びやかに社会に進出することを阻まれるなどあってはならないことだ―私もそんな思いで弁護士になった。ああ、こんな思いで後進を励ましてくれる女性の先輩がいるんだと胸が熱くなったものだ。

 あれから28年、猿橋さんが新聞に登場されるが目につけば必ず読んだものだ。又、毎年猿橋賞を受賞された女性自然科学者が新聞に登場する度に、ほのぼのとした気持ちでその記事を読んでいた。でも、猿橋さんは自然科学者、私は文化系人間だから、猿橋さんの科学者としての業績を存じ上げないままであった。
今度の窓の記事は、猿橋さんの評伝を「花の70代を生きる」と言われる米澤富美子さん(物理学者、女性初の元日本物理学会会長)が書かれたことを紹介していた。「猿橋勝子という生き方」(岩波書店)という本である。猿橋さんに久しぶりに「お会い」したくて、早速買い求め、一気に読んだ。本には猿橋さんの業績がいくつも紹介されていたが、是非とも一つ紹介しておきたい。

 驚いたのは、マグロ漁船第五福竜丸のビキニ環礁でのアメリカ水爆実験の被爆問題に猿橋さんは大いに関わられていたことである。私は3・1ビキニデーで焼津 まで行ったことがあるが、このことを知らなかった。赤面ものである。久保山愛吉さんらが頭からかぶった死の灰の本体を明らかにし、ビキニ水爆の爆心地での様子を明らかにされたという。水爆実験によって生じた死の灰とはサンゴの粉末であったのだ。水爆はビキニのサンゴ礁をなぎ倒し、硬いサンゴをケシ粒大の粉末にまで粉砕し、富士山の10倍の高さにまで巻き上げたのであったという。
 又、アメリカは「海水に薄められるので放射能の汚染は心配ない」といい、放射能物質が生物体内へ濃縮される事実も過小評価されていたという。
 これに対し猿橋さんは、三宅泰雄教授の主催される研究室で日本近海の海水の放射性物質を測定し、アメリカの主張を事実でもって否定することに貢献されたという。猿橋さんの平和への願いは、このようにいかんなく発揮され、原水爆禁止運動の推進力となった。

 当時小学生であった私は、「魚が放射能をかぶって食べられないんやてね」と子ども同士で話題にしていた事の真実はこのように解明されていたのである。
 1999年(平成11年)男女共同参画基本法が制定され、時代は変わろうとしている。 今、私たちの法曹界も法学部の女子学生、司法研修所の女子司法修習生も全体の3割の時代に入った。
しかし、男女の賃金差は縮まらず、女性の非正規雇用は雇用者全体の半分を占め、法違反の出産解雇が横行している。今問題になっているワーキングプアー問題は、長らく女性労働者が味わってきたことである。そして全体が沈む中で、女性の貧困化は更に進み深刻である。一方、日本の淳風美俗などといって、女性の伸びやかな生き方を否定する勢力も政治の場にもまだまだ存在する。首相までなった安倍晋三などその一人である。

 女性が伸びやかに生きる社会は、男性にとっても自由に伸びやかに生きれる社会だとの気づきはどれだけ定着しているだろうか。猿橋さんは87才で亡くなられるまで研究を続けられ、後進の育成に力を尽くされたという。
私など一介の弁護士に過ぎないが、猿橋さんの生き方に共鳴し、先に生まれた女性として後から続く女性たちに少しでも道を広げたいと思う。


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