きづがわ瓦版

ことのはぐさ

2008.10.27 弁護士 渡辺和恵 | 日本通運未払契約賃金請求事件


 1 事案の概要
 
(1) 日通本体への移籍
 原告のFさん他3名は、もと日通淀川運輸という日通の子会社でペリカン便の配達業務に従事していた。
 1999年秋、2000年4月をもってペリカン便業務を日通本体に移す方針が示され、原告らを含む従業員も日通本体への移籍を求められた。淀川運輸の労 組委員長であったFさんは2000年3月の春闘妥結後、全日通役員及び会社側より、「移籍に当たっては子会社での給与水準を保障する、一時金も保障する、 退職金はなくなるが、歩合でがんばればこれに見合う給与を得られる。全日通には移籍の1年後に加入させる」との説明を受けた。
 日通淀川運輸の社長Kも原告らを含む従業員に全く同様の説明をした。さらにその後日通本体の関西ペリカン・アロー支店の総務課長が淀川運輸を訪れ、原告 らを含む従業員に対し、前記同様「子会社での給与水準を保障する、一時金も保障する、但し退職金はなくなる」という説明を繰り返した。
 原告らはこれを信用し、日通との「雇用契約書」(賃金について「支店社員賃金規定による」との記載がある)に署名・押印した。
 
(2) 移籍後の賃金ダウン
 ところが、実際には移籍と同時に原告らの賃金は子会社時代の給与水準の85~95%にカットされていた。また給与体系はそれまでの「基本給+手当」から 日給月給に変更され、その後2000年6月2日及び2001年1月26日の2度の賃金規定の改正(真実改正が有効かどうか今日に至るまで不明)により日給の最低補償額の上限を切り下げられた。
  また、従前の一時金は保障されず、早々に低額のインセンティブの支給となり、支給ゼロの時もあった。

(3) 全日通労組の背信
  原告らは子会社の従業員であったが、組合は日通本体の組合(全日通)の傘下である全日通労組淀川協議会に所属していたところ、移籍の話が出てくる数ヶ月前に、全日通より突如として子会社で独自に組合を作るよう言い渡され、Fさんがその委員長となった。そして移籍話が出てきたときの日通淀川運輸の社長Kは、 労組の淀川協議会時代の委員長であり、Fさんは組合活動の先輩であるKを信用していた。
  ところが前述の通り、移籍後に賃金がカットされたため、原告らは全日通に助けを求めた。しかし、移籍時の条件として移籍後1年たたないと全日通に加入できないこととされていたため、全日通は「君たちはまだ組合員ではない」として原告らの訴えを取り上げなかった。
  原告らは2001年4月には全日通に加盟でき、会社の不当な賃金カット是正に力を貸してもらえるものと期待していた。しかし、全日通は何の説明もないまま 原告らの組合加入を延期し、その一方で、2001年8月23日、全日通は会社との間で、「具体的には別に定める」という文言で事実上前述の賃金カットを追認する内容の労働協約を締結し、さらに2002年3月31日、賃金ダウン・一時金不支給を追認する労使協定が日通大阪支店と全日通労組大阪支部の間で締結 された。原告らが全日通への加入を認められたのは2001年9月1日のことである。

 2 提訴と被告の応訴態度

(1) 提訴
 原告らは組合からも救済を拒否され、やむなく子会社時代の給与・一時金と現在の給与・一時金との差額を求めて本件訴訟に踏み切ったが、上記のような事情 は提訴後の求釈明によって初めて明らかになったものである。最初はなぜ自分たちの賃金が下がっているのか全く分からないままに、手探り状態での提訴であった。

(2) 被告の応訴態度
  これに対し、被告は「移籍時に子会社での給与水準の維持を約束した事実はない」という否認に終始し、裁判所の「被告として否認以外に、具体的なストーリーの主張はないのか」との慫慂にも「否認以外の積極的主張はしない」との態度をとった。

 3 判決

(1) 本件の主たる争点は、(1)移籍の際に従前の賃金額・一時金を保障する約束があったか、(2)2度の賃金規定改正の効力、(3)2002年3月31日付労働協約の効力、(4)時効援用権の濫用の有無である。

(2) 移籍の際の保障約束の有無について
  この点につき、原告の主張を裏付ける書証はほとんどないといってよい状況であったが、それでも裁判所は、次のような論理で保障約束の存在を認定した。
  「原告らは、特段の希望があったわけでもないのに、被告の営業方針上の理由から被告への移籍が求められていたものである。それにもかかわらず、賃金の低下、殊に一時金の金額が不確定となることが見込まれる移籍後の賃金体系が設定されている被告への移籍について、原告らが何ら異議を述べたり抗議をしなかっ たというのは、格別の理由があったからであると考えざるを得ない。」
  「そこでかかる格別の理由について検討するに、原告らの、淀川運輸における賃金額を保障する旨被告が約束したとの供述は、格別の理由として合理的かつ自然 であり、信用できる。」とし、さらに被告には原告らを移籍後の業務に積極的に活用する目的があったことを指摘して「原告らを被告の下に誘うべく、積極的に 被告が好条件を提示した可能性も否定できないところである」とした。
  また、一時金についても、「収入の大きな部分を占めていた一時金につき、原告らが何ら被告と約束することなく、被告と雇用契約を締結したと考えることは困難である」として、淀川運輸で得ていた一時金の8割を最低限度支払うことが合意されていたとした。

(3) 賃金規定改正の効力について
  2度の賃金規定改正が就業規則の不利益変更にあたると認定した上で、就業規則の不利益変更にあたっては、「就業規則の変更により労働者が被ることになる不 利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性」が必要であり、ことに賃金については「その ような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のもの」であることが必要である、本件では 宅配事業では赤字が出ていたとしても被告全体としては労働組合が賃上げを要求することも検討する状況であり、賃金引き下げの必要性はなかったと認定した。 また、賃金規定改定について労働組合の意見を聴取していないことも理由としている。

(4) 労働協約の効力について
 前述の通り、原告らが全日通に対して移籍時の約束を守るよう要求している状況下であるにもかかわらず、従前の原告らの最低保障給を減額する内容の労働協 約が締結されたものであるが、判決は「労働者の地位の向上を目的とする労働組合がかかる合意をなすとは容易に考えられないところであり、合理的に解釈すれば、上記労働協約は、原告らの賃金について紛争が存する状況下で、当面、被告が最低限支払うべき金額を定めたものに過ぎず、原告らの賃金についての法的な 確定は、その後の関係者の交渉や履践する法的手続に委ねたものと認めるべきである」とした。

(5) 時効援用権の濫用について
  ただ、時効援用権の濫用については裁判所の認めるところとはならなかった。

 4 最後に

 本件判決は、移籍時の口頭での賃金の保障約束を認めた点で高く評価できるものである。
 また少数労働者に不利益な労働協約の効力について、被告が支払うべき最低限度を定めたものであると限定的に解釈した点で画期的なものである。
 被告である日通は判決後まもなく控訴したので、今後も控訴審で闘いは継続することになった。一審判決を後退させることのないよう奮闘したい。


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