ことのはぐさ

2016.01.10 弁護士 渡辺和恵 | 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律と子どもの保育を受ける権利


 日々の職場生活と子育てに忙殺されている女性にとって現実離れの感さえある「女性活躍推進法」が去る8月に成立し、近く施行されます。少子化社会の中で、女性の労働力を動員するために、しかも低賃金で使うための方便だとの批判が早速出ています。更に、一方で菅官房長官が俳優の結婚にからんで、「この結婚を機にママさん達が『一緒に子どもを産みたい』という形で、国家に貢献してくれればいいなと思う。たくさん産んで下さい。」などと発言したものですか ら、この法律の安倍政権の意図が透けて見えます。
 働き続ける鍵は保育所
 だけど、今日も第1子出産と同時に退職して家庭に入る女性が6割に上るという。「活躍」とほど遠い現実からすれば、私たちの視点で今一度、この自分の一 生を「活躍」とまでいかなくても、自己実現する道を探ってみるべきでしょう。私は自分の職業生活の経験から、働き続けるために最も必要なのは保育所の完備ではないかと思っています。
 一般には女性達は第1子出産退職の後、子どもの出産・育児の間は家庭で子育て、子どもが徐々に手が離れれば非正規で働きに出て、正規社員と同様の労働に従事しています。
 この人生コースを歩んでいるのは保育所に入れなかったのでやむを得ずというのが多いのが現実です。認可保育施設に入れない待機児童の数は今年の4月時点で2万3000人余りで5年ぶりに増加に転じたと報じられていますが、私は潜在的待機児童はこんな数字に止まらないと思っています。
 ところで女性活躍推進法は、職業生活と育児との両立のために必要な環境の整備を一応は挙げていますが、保育所の文字はありません。女性達がこの法律を精力的に使うという動きをしなければ役に立つ代物ではありません。出産・育児は自己責任、女性労働力は安く使おうというのが安倍さんの魂胆なのですから。
 子どもの目から見た保育所
そこで、問題提起をしたいのが、子どもの保育を受ける権利(日本も1994年に批准した国連子どもの権利条約)の観点です。
 親から見れば保育所は親に代わって安心安全な養育環境を作るといった負担を担ってくれる所ですが、子どもから見れば保育所はお友だちと生活を楽しむ所で、保育所に通うことは子どもにとっては権利で、これが侵害されてはなりません。
 次に紹介するのは、幼児の頃に、保育所に通う権利を侵害されたため、お父さん、お母さんが大阪市を相手に裁判をし、6ヶ月かかって勝利し、保育所に戻り、今は我が事務所で事務局員として働いている石川さんが語る「子どもにとっての保育所」です。石川さんは既にお母さんです。
 1999年(平成1年)3月31日、浪速区と住吉区の同和保育所に通っていた子ども達7名が保育所から追い出されました。保育所に行けなくなってから6ヶ月間、当時私は排除された子ども達と楽しく過ごしていましたけれど、今まで通っていた保育所の友達に会えない寂しさと疑問を感じていました。7人の父母達が子ども達が変わりなく生活できるように臨時の保育所を作ってくれたので、上記に書いてあるように楽しく過ごせました。それがなかったら、もっと寂しく不安一杯で傷ついたと思います。
 父や母達、周りの人達の運動で私たちはまた通っていた保育所に戻れましたが、今でも当時を振り返るとモヤモヤした寂しい気持ちになります。今では私も当時の自分と同じ位の子ども達がいます。突然、保育所から排除されることになれば、これから先どうやって仕事と子育てをしていったらいいのか、とても不安になると思います。
 埼玉県所沢市では育休退園制度を実施していますが、育休中だからといって退園になるのは許せません。子どもにとって大好きな先生や友達と過ごせなくなることは、本当に大きなストレスです。待機児童の解消のために育休中は退園するのではなく、保育園を増やし子ども達のために安心して子育てできるような保育制度を強く望みます。
 保育士資格のある多数の先生方が現場で働いていません。労働条件が悪いからです。現場で働いている保育士さんは既に約半分は非正規です。保育士さんが足らないから保育所を作れない、だから待機児童が沢山いて、お母さんが働けないし、子ども達の保育環境が乏しいといった悪循環を絶たなければなりません。子どもの権利条約は、「日本国(批准国)の施設・設備などを担う義務」を明記しています。保育所で育った子ども達が新しい明日を作ってくれるのが楽しみです。


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