ことのはぐさ

2016.09.16 弁護士 森信雄|取締役の任期変更に伴う退任取締役からの損害賠償請求


 X氏はY株式会社の取締役。Y社は親族経営の同族会社。ある時、株主総会の決議で取締役の任期が10年に変更された(通常は2年とされることが多いが、非公開会社の場合、10年まで認められる)。X氏は今後10年間は取締役を務め役員報酬を得ることができると安心し、それを前提に人生設計をしていた。
 ところが、その後、Y社内で内紛が生じ、臨時株主総会において、取締役の任期を1年に変更する旨の定款変更が行われた。従前の取締役は一旦全員任期満了で退任したものと取り扱われ、主流派に属する取締役は再任されたが、少数派に属するX氏は再任されなかった。
 X氏はこの事態を受け容れるしかないのか。
 

 同様の事案で、裁判になったケースがある。東京地裁平成27年6月29日判決である。
 この事件において、X氏はY社に対し、一次的には、取締役の地位の確認(請求A)、二次的(予備的)には、仮に取締役でなくなったとしても10年の任期の残りの期間(この事件では5年5か月)得られるはずであった役員報酬の支払い(請求B)を求めた。

 

 上記判決は、請求Aは認められないと判断した。
 取締役は株主総会の決議によっていつでも解任することができるとされているところ、任期の短縮を内容とする定款変更は実質的にはそれと同じであるというのがその理由である。

 

 他方、請求Bについては、X氏の請求の一部を認めた。
 まず、正当な理由のない取締役の解任の場合にその取締役が会社に対して損害賠償を請求することができる旨定めた会社法339条2項を類推適用することができるとした。なお、会社法339条2項は、役員や監査役が株主総会決議で解任された場合に、正当理由がない限り、会社に対する損害賠償請求できるとする規定である。

 そして、本件では損害賠償請求ができるとしたうえで、5年5か月もの間同じ報酬を受け取ることができたであろうとは言えないことを理由に、退任から2年間に限り報酬相当額の損害賠償を認めた。

 

 判決ではなぜ2年なのかについての説明はなされていないが、認められた期間が一部であるにしても、一定バランスがとれた判断ということができるのではなかろうか。
 非公開会社について実務上参考になる裁判例である。


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